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はじめに
腰痛症は,各科の境界領域疾患として,比較的多い疾患であり,就中運動器疾患を対象とする整形外科領域では,脱臼,骨折,捻挫などの外傷を除けば,外来患者の約3分の1は脊柱に関する腰背痛の患者であり,臨床的には重要な地位を占めている.最近は社会情勢の複雑化や諸種の事情で,腰痛が増えて来ているようであるが,その要因としては,平均寿命の延長と共に老齢化がすすみ,老人性疾患による腰痛のふえたこと,生活様式の変化,レクリエーションなどの影響,若年者の体力不足などに加わるに,労使双方の紛争の対象として,腰痛症が職業性疾患として脚光を浴びて来たこともその一因である.最近の傾向としては,比較的若年者に腰痛のふえたことと,腰痛と坐骨神経痛の代表的疾患である椎間板ヘルニアの診断法,治療法が確立されてから,本症の診断の数が増えて来たことなどが挙げられる.
年齢的に腰痛症をみると,20代~30代の年代に一つのピークがみられ,また,退行変性性変化の見られる50代を中心に他のピークがみられる.「ぎっくり腰」といわれる突発性,あるいは急性腰痛症は,あらゆる年齢層に見られるのであるが,不用意な動作,不自然な姿勢にひきつづいて起るものであり,①椎間板性のもの,②小関節性のもの,③靱帯性のものが考えられるが,その他皮下脂肪組織のヘルニアや筋筋膜炎,結合織炎,神経絞軛,など色々の原因が考えられる.働き盛りの成人に見られる腰痛は,いわゆる「ぎっくり腰」を除外すれば,「椎間板ヘルニア」や「脊椎分離・辷り症」などが重要な疾患であり,他方,成人病として老人の腰痛では「変形性脊椎症」,「老人性乃至は更年期後骨粗鬆症」,この結果として生じる「病的脊椎圧迫骨折」と「脊椎転移癌」などが考えられる.この他,泌尿器科,婦人科領域での骨盤臓器の疾患や,内科領域での消化器系胆道疾患,ことに膵疾患が不定の腰痛を惹起することはよく知られた事実である.以上の概論的な予備知識をもとにして,腰痛各疾患の鑑別診断を各論的に述べ運動療法に言及する.
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