講座
運動療法の実際(1)
武富 由雄
1
1大阪大学付属病院
pp.197-201
発行日 1971年6月9日
Published Date 1971/6/9
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1518100435
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はじめに
人間は生きているかぎりに常に運動をしているといえる.Sherringtonはその著“Man on his nature”で‘運動の学習は限りなき可能性を有する’と述べている.この運動のメカニズムを骨格,神経,筋の各疾患に有利的に用いることによって,治療に価値をもってくる.これが運動療法である.
近年,旧来の受動的に肢体を動かして身体的機能回復をはかるのとは異なった,主として患者自身が随意的に,反射的要素をも組み入れた運動療法を行なって,身体機能の改善を求めていく傾向が,理学療法の分野に占める割合が多くなった.De Lormeたち(1948)も,筋マヒなどによって弱まった筋力を復活させるため,運動療法を行なう際に,一定の抵抗を与えて,自己受容性反射のもとに行なうことが有利であると述べている.
また運動療法は治療面はもちろんのこと,筋力を減弱させない,ゆがみを防ぐといった保健,予防面にまでわたっている.しかるがゆえに身体的機能向上とともに精神面の改善にも効果が広く期待でき,患者を全人間的回復の道へすすめることができる.
そのような治療の目的を完全に行なうためにPTはぜひとも身体機能の解剖,生理(身体運動学),そして正常からのかたよりについての基礎を熟知しておく必要があり,身体全体に表われる心理的な微妙な変化にも気を配るようにしなければならない.さもなければ,運動療法はいたずらに,時間とエネルギーのむだな消費に終わってしまうであろう.
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