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I.open methodかclosed methodかの議論について
真珠腫症の手術的治療における最も基本的な術式は鼓室形成術であり,聴力の改善ないしは保存に努めるべきであるとする考えには議論の余地がない。しかし術式の細部,とくに外耳道後壁を保存するclosed methodにすべきか,外耳道後壁を除去するopen methodにすべきかについては意見の一致がみられず,世界的にみても対立した議論が続けられているのが現状である。open methodを採用すべきであるとする者は,closed methodでは真珠腫の再発が起こりやすい,一方openmethodでは真珠腫の摘出が容易で確実であり,再発してもその処置が簡単であるなどの理由を挙げてclosed methodを批判し,closed methodにすべきであると唱える者は,open methodでは術創の上皮化が困難で耳漏の完全停止をみないことがある,術後治療が長期にわたる,聴力の予後が不良であるなどの欠点を挙げ,たとえ再発が少しくらい多くともclosed methodのほうが優れていることを強調している。しかしこのような二者択一式の議論ではたして真珠腫症の手術的治療,とくに鼓室形成術の真にあるべき術式を確立しうるかどうか,はなはだ疑わしい。少なくとも私には不毛の議論のように思われる。
鼓室形成術の目的は,この手術が開発された当時から中耳病変と伝音系の修復をはかり聴力を改善することにあるとされてきた。Wullstcinの古典的5型分類はこの考えを的確に表現しているため,現在でも広く受け入れられている術式分類である。しかし鼓室形成術の歴史がすでに30年を越え,手術手技,その成績が大幅に改善された現在では,以上の手術概念は当然修正されるべきであり,それによってこの手術をさらに完成度の高いものにしなければならない。私は"鼓室形成術の目的は健康な外耳,中耳を回復し,聴力を安定的に改善ないし保存する手術である"と規定するべきであると考えている。
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