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中耳の伝音機能は鼓膜前面の音圧と鐙骨底板に生ずる音圧との比で知ることが出来る。然し中耳は後で述べるように複雑な振動系であるからこの機能を理解するには第1図の単純振動系の知識から進んで行かねばならない。単純振動系とは一つの質量(Mグラム)とこれに連結された一つのバネ(強さSダイン)及び振動を伴つて生ずる粘性抵抗(単に抵抗と呼ばれて値はRオーム)より成つている。如何なる振動系もこの3要素から組立てられ,この3要素は共に振動系を動かさんとする外力(我々の場合は音波)に反抗する。この合成された反抗値はインピーダンスと呼ばれ単位はオームであり,抵抗と同じものであるが,その値は外力の周波数に対して変化する点が抵抗と違うだけである。従つてインピーダンスが高い振動系は動きが悪く,インピーダンスが低い振動系は良く動くと云うことになる。その値が測定出来れば音圧の知られた音波に対して生ずる振動系の振幅が計算出来る。従つて振動系の機能が分る。
例えば第1図に就て質量M,弾力S,抵抗Rの夫々違つた二つの振動系の一定外力によつて生ずる振幅を比較してみる。左端の(1)の場合から始めると,質量だけが違う二つの振動系では重い系は低音域で振幅が大となり,軽い系は高音域で振幅が大となる。(2)の場合の如くバネの力即ちスチフネスだけが相違する二つの系ではバネの力が弱い系の振幅は低音域で大となり,バネの力が強い系の振幅は高音域で振幅が大となる。(3)の場合の如く抵抗だけが違う二つの系では抵抗の大なる系の振幅は総の音域に於て振幅が劣ることになる。単純振動系では共鳴が一つしかない。従つて狭い限られた音域だけで機能が良くなるに過ぎない。広い音域に亘り機能が良くなるためには共鳴が沢山あれば良い。例えば単純振動系を二つ連結すると共鳴が二つ生ずる。単純振動系が二つ以上連結されている系は複合振動系と呼ばれ共鳴が2箇以上ある。
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