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I.緒言
慢性副鼻腔炎の手術的療法はCaldwell-Luc(1897年)手術でいわゆる根治手術の基礎が作られ,以後さらに黒須氏,西端教授らの唱えるpan—sinektomieとなつて現われた。この結果慢性副鼻腔炎の治療成績は著しく向上したが,なお約30%内外の不治例が認められており,現在はこの不治例を追求した研究が行われている。複合性副鼻腔炎の中でも最も頻度の多いのは上顎洞炎に篩骨蜂窠炎の加わつたものを主体とするもので,したがつて日常最も多く行われているものは西端教授のいわゆるKomservative pansinektomieである。この手術の結果,術後経過不良の場合は主として篩骨術創経過不良が最も多い。現在手術は病的蜂窠の徹底的除去を原則とすることはもちろんであり,かつ各種の方法の綜合使用により現在では,ほとんど完全に病的粘膜を除去できるものと信ずる。しかしながら副鼻腔のごとく外気に直接接する術創において病巣の完全除去のみで足れりとするのは誤りで現在では術創を如何に順調に治癒せしめ,かつ術後の変貌等を最小限に止めるかに意を用うべきであると考える。ために,従来肉芽の鉗除や,術創変貌修正等が行われ,また最近コーチゾン,プレドニン等のホルモン剤も肉芽抑制のために用いられ始めているが,なおこれらの諸問題が解決されたわけではない。われわれも数年前よりこの点について苦心し最近この術創に粘膜を移植することを考えるに至つた。副鼻腔術創に対する粘膜移植について松田,大島氏らの動物実験があるが,未だ人体における粘膜移植の報告はない。また高橋式(研)手術あるいは下鼻道開窓術等では上顎洞粘膜は除去せず,単に対孔を鼻腔に大きく開くのみであり,また前頭洞炎の際も軽度のものは,自然孔部の流通を良くしてやるのみで治癒せしめるなどと云う考えは単に保存的手術と考えるよりもむしろ洞粘膜の積極的利用であると考えたい。病的副鼻腔粘膜もVan Alyea,Hilding,proetzなどによれば相当な病変でも,ある条件を与えれば可逆的であり得るといわれている。またわれわれは久保式手術で移植された有茎腫脹上顎洞粘膜も時を経るに従い炎症が消失し薄い粘膜となつた症例を経験したことがある。一方人体において篩骨術創に全般的に移植するに足る粘膜を健康部位から取ることはほとんど不可能である。これらのことよりわれわれは上顎洞病的粘膜を篩骨術創への移植に利用することを考えた。これは前記の上顎洞や前頭洞における保存的手術時の粘膜利用より,さらに積極的に利用せんとしたものである。ここで上顎洞粘膜の状態について考えると,上顎洞自然孔は丁度飾骨洞との境界部に近くありここを茎部として飾骨洞に移植するのに好都合であるばかりでなく,上顎洞粘膜は之を切開して広げるとほぼ節骨術創の大部分を被うに足りること,上顎洞粘膜に分布する動脈の主たるものは外側後鼻動脈の枝で自然孔より入つておるものであり,かつかなり網状を呈し,部分切除もあまり影響を与えないなどの諸点より移植するのに,きわめて好都合である。これらの結果よりわれわれは節骨術創に顧門部より有茎の上顎洞病的粘膜を移植する方法を試みるに至つた。その結果はきわめて好成績であつたので,さきに第61回日耳鼻総会において要旨を発表したが,ここにさらに詳細にまず手術法に就て報告する。
Because of the fact that wound healing in ethmoidectomy is quite often met with delayed process and unfavorable results, especially by incurrence of excessive granulation formations and other complications, Akaike and associates attempted transplantation of mucous membrane covering such a wound in order to obviate these difficulties. In 11 cases of ethmoidectomies the wound in each case was covered by a pedicled mucous membrane transplant removed from the diseased maxillary sinus. It is found that the fact that the mucous membrane being diseased was not a contraindication in its use for this purpose because such a mucous membrane soon regained its normal condition.
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