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序 Baranyの20秒10廻転の迷路刺戟に代つて,新しい廻転刺戟が近来北欧を中心として唱導されている。所謂,subliminal rotation, Unterschwe—llige Drehung,域値以下廻転法で,近頃我が国でもよくとり上げられているcupulometryも此の理論に基いている。subliminal rotationの理論は誠に新しい面があり新しい事実が呈示されている。理論は淋巴流動説殊に慣性によるクプラの歪みdeflectionに基礎をもつている。しかも仮説的に想像するのではなく歪みを実証したStein—hausenの実験に拠つている所,強い根拠が窺われる。彼はHecht (鮫の一種)の半規管にインクを注入し廻転によるクプラの歪みを実証している。Barany法で廻転開始により強い正の角加速度が加わると,廻転と逆方向にクプラは歪み偏し,等速廻転に移ると正常位に戻り,20秒10廻転し急停止すると強い負の角加速度が加わるためクプラは廻転方向に偏する。このように今迄仮説にしか過ぎなかつた淋巴流動説が明白に実証されたのである。この事実からBaranyの20秒10廻転の刺戟が再検討されsubliminal rotationの理論が産まれる。即ちBarany法では廻転当初,突然約+45°/Sec2の大なる角加速度が加えられる為,慣性によつてクプラは急に廻転と逆方向に偏す。等速廻転に移つてもこの当初の刺戟は消えず計算によるとこの影響は長く120秒間つづく。従つて20秒後急停止した際の迷路反射は廻転停止の負の角加速度の刺戟が純粋に現れるのではなく,廻転当初の正の角加速度の影響が加わるため廻転中の眼振perrotatoric nystagmus, Drehnystag—musは廻転当初の強い角速度による反射であると主張している。
以上の見解から当初の角加速度を出来る丈け弱く緩徐に域値以下の刺戟にする所に本法の主張がある。域値,limit, threshold, Schwelle即ち人の半規管の認容し受容し得る最小角加速度はMachによると2°/sec2である。この値は学者により一定しないが大体Machの値に近い。自覚的の廻転態,眩暈,他覚的の眼振の発来から決められたのであるが半規管の構造から数学的計算によつて出された値も略これに等しい。従つて主題のsubliminal rotationとは2°/sec2以下の0.3°/sec2乃至10°/sec2の角加速度がとり上げられこの角加速度でスタートし且つ加速して行く方法が主張されている。このように廻転することによつて廻転が感覚されぬのは勿論,極く徐々に廻転して行くので,廻転当初並びに廻転中,クプラは偏せず,迷路は刺戟されず,迷路及びその中枢路はphysiological quietにあると主張する。然して当初の角加速度を毎秒加速し一定の角速度に達すると等速廻転に移り,この廻転を急停止した時,慣性により内淋巴は動き停止前の廻転方向にクプラは偏し初めて迷路が刺戟され迷路反射がafternystagmusとして或いは又所謂迷路感覚がaftersensatienとして発来する。故に本法によればBarany法の当初の強い正の角加速度を除き純粋に廻転停止による迷路反射と迷路感覚を測定し得ると主張されている。本法は最近多数の欧米の学者によりとり上げられ新しい迷路検査として注目を集め殊に種々の角加速度,角速度を与えて計測したafter sensation並びにafter nystagmusはグラフに記載されcupulogramと呼び,我が国でも近頃よく採り上げられている。本法の特色とする所をくり返し述べれば廻転当初及び廻転中,加速度を域値以下に操作するため廻転中の眼振perrotatoric nystagmusが惹起されず廻転停止の際クプラが始めて偏し歪む現象が起り,即ち迷路が刺戟される。事実本法を実施してみると廻転中は肉眼的には勿論眼振電図を以てしても眼振を証明せず廻転停止により初めて眼振をafter nystagmusの形に於て証明する。
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