- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
Ⅳ.オランダとベルギーにおける前庭迷路
研究 ユトレヒトの有名な前庭迷路研究所はヨーロッパ最古の研究所の1つであり,1912年頃には既にその研究活動を開始している。この研究所は当時R. Magnus(薬物学)とde Kleijn(耳科学)の指導下にあつたが,2人はここで長年月に亘り協同で基礎的な動物実験を遂行し,哺乳類の姿勢と平衡と云つた重要な課題に取組み,その機構の解明に大いに貢献している。既にオースタリ一篇でも述べた様に此処でも基礎医学者のMagnusと臨床医学者のde Kleijnの共同研究は数々の実り多い成果をあげている。2人は技術を要する,困難な実験を遂行し,三半規管から開発される運動反射と耳石から開発される位置反射を別個に表出することに成功している。運動反射に関しては,犬に廻転刺激を加え,この際出現する反射を頭部,頸部,眼球,腰部及び四肢に於いて夫々観察し,之を廻転中並びに廻転後に分けて厳密に記載しており,更に進んで直線加速度に対する反射を研究し,この反射は迷路中でも三半規管を介して出現するものと考案している。もつとも,この考えに対しては反論が多い。例えばMac. Nallyらは直線加速度刺激に対して反射するのは耳石糸であるとし,第二次世界大戦中に行われた船暈(加速度病)に関する数々の実験も,Mac. Nallyの考案に左祖する結果となつている。但し,Mac. Nallyが「この場合(直線加速度刺激を負荷する場合)三半規管が参与しないとは云ひきれぬ」と述べている事は付言しておかねばならぬ。その詳細については,カナダの迷路研究の章でのべる予定である。
さて,Magnusとde Kleijnは前庭迷路から開発される位置反射には,四肢,頸部,躯幹に対する緊張性迷路反射並びに眼球の車軸様廻転,垂直性眼球偏位等の代償性眼球偏位が存することを明かにしているが,之等の現象は当然,中枢神経系の解剖との連関のもとに更に広範な検索を行つて考察されねばならず,Magnus,de Kleijnらはその後,実験を重ねて次の様な結論を得ている。
Copyright © 1961, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.