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慢性副鼻腔炎の手術的治療の歴史に満足すべき成果をあげ得なかつたことは臨床家の等しく認めざるを得ない事実である。多くの副鼻腔炎に関する研究にも拘らず,手術的治療は一般臨床家に悲観的な印象を与えていることも否めない事実である。その最も大きな原因は疾患そめものゝ難治ということよりも,顏面という手術に対して有形的よりも寧ろ無形的な強さを持つた防壁に被われている前頭洞と前篩骨蜂窠の一部とが,副鼻腔の重要な部分として存在しているからである。この部分に迄侵入した炎症は現在の一般の臨床ではその儘にしておくか,或は之を追及するとしても専ら上顎洞と鼻腔とからの経路によつている。若し之等の部分に強い変化がある場合には,その変化は一部残されるものと考えざるを得ない。鼻外から進むことがよいことはよくわかつてはいるが,さて手術となると顏面への瘢痕を作つてまでもということになり,手術による疾病の治療よりも顏面の瘢痕の方を重くみて,鼻外からの手術は多くの場合躊躇されている。之では耳鼻科医の退却である。副鼻腔炎の手術単位として現在では「篩骨上顎洞炎」の形のものが最も多く,更に「前頭洞篩骨上顎洞炎」(Fronto-ethmoido maxillar sinui—tis)の形のものも勘くない。一般専問家としては前頭洞,篩骨蜂窠を開くか開かないかということは夫々の例によることゝしても,要すれば容易に之等の部分を鼻外から完全に手術が行えるような態度でなければ,慢性副鼻腔炎の治療の向上を望むことは難しいことである。現在でも上顎洞及び鼻腔からの篩骨の手術を上顎洞の手術に加えることによつて,良好な成績をあげていることは事実ではあるが,前頭洞炎又は前篩骨蜂窠の炎症が,之等の方法で治つたとされる例は粘膜の変化が軽いか,又は篩骨蜂窠の発育が悪く,Recessusを欠き,比較的簡単な洞の型をなしている例であろうと推測される。個人的なVariationがその形の上にも極めて強い之等の前副鼻群を完全に手術する為には,鼻外から行わなければ無理であることは最早や論ずる必要もないこことである。然し之が尚実際には行われていないのは,全く顏面を切ることにある。顏面に瘢痕を残さないように手術できたらこの問題の大半は解決されるであろう。私の盾毛切開による手術法はこの主旨より生れたものであつて,眉毛内に加えられた1.5〜2cmの短い切開は術後皮内縫合を行うことによつて,その瘢痕は殆んど認められないようになる。この方法を私が1952年に発表してより既に3年を経過したがその間にこの方法には著しい改変を加えなければならないような問題に遭わなかつた。略々様式化された状態で,現在尚続けられているのであるが広く一般の追試と批判を求める為に,再びこの方法の主旨と手技に就て記述することにした。
特に最近のArchines of Otolaryngologyに於けるRaul Bergaraの前頭洞手術の現状に就ての論文は私に今一度論述することを促した。この論文のことに就ては後で述べることにする。
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