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慢性副鼻洞炎の手術的療法に就ては古今無數に近い文献があり我々を裨益する所大であるが,一且其の手術の後療法と云う事となると其の詳しい記載は甚だ少い。爲に手術的療法は手術的方法が完全に行われていれば後療法は放置しておいても從屬的に治癒して了うものの如く解釋され易い。又從來慢性副鼻洞炎が手術的に處置されて尚治癒しない場合種々の原因が擧げられているが,後療法が其の因として指摘されてる事は甚だ少い。果してそんなに後療法は臨床的に意義の少いものであろうか。
私は慢性副鼻洞炎を種々の面から検討中後療法の受持つ役割は決して少くない事を臨床的立場から痛感していたが此度病理組織學的の立場からも之を認め得たので之に就て記載すると共に,この際之等に關與する問題に就ても順を追つて觸れてみたい。即ち私はこの後療法の意義を検討する爲後療法として最も繁雑とされる篩骨蜂窠炎の手術後の術創を長期に汎つて觀察すると共に術創の治癒機轉を其の術後の種々な經過に伴い8日より11年迄の問種々の間隔の41例66側に就て創腔の再生粘膜を試驗的に鉗除し之を組織學的に検索してみた(第1表)。この病理組織學的所見の詳細に就ては又稿を改めて報告する豫定であるが一般に再生粘膜は約2カ月以内で完成するとされて居り數カ月以後の事は餘り明かでないが再生粘膜の成立に關する限りでは私の標本に於てもそうである。そしてこの再生粘膜の成生迄の間に肉芽増殖と上皮形成との不調和の問題もあるが,然し問題はこの2ヵ月以後にも多く殘されているものの樣である。即ち再生粘膜が2カ月位で一應形態的に成立しても其れ以後遙か長期に汎つて(少くとも半ヵ年)粘膜は尚除々に改構して行くのであつて其れが臨床的肉眼的には術創の形態的變化となつて我我の眼の前に現われ,それが機能的にも機質的にも障害を及ぼし得る事となり之に感染が伴うと益益經過の複雑化を來すものの樣である。
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