特集 耳鳴と眩暈
第1章 耳鳴
耳鳴の発生機構に就いて
勝木 保次
1
1東京医科歯科大学(生理学)
pp.743-749
発行日 1955年12月25日
Published Date 1955/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201452
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耳鳴は一種の病的な感覚であるから機構的には最終的に大脳皮質に何等かの活動が考えられる。而しこれのおこる原因として,末梢聴器たる蝸牛より大脳皮質に至る間何処に病的活動をする部位があつてもよいわけで,臨床医学的に耳鳴の性質によつてその発生部位が予想され,鑑別診断の基礎となつている。而しこれは長い間の経験から主として病理組織学的変化に基くもので,生理学的方法によつて実証されたものではない。残念乍ら現在の生理学は未だ充分な発達を遂げてないため,末梢より中枢に至る全過程の活動様式を明かにしておらず,耳鳴の発生機構は想像の域を脱していない。而し乍ら最近の一般神経生理学の躍進的な進歩から,その機構はある程度理解されるようになつた。臨床的智識を欠く筆者ではあるが,聴覚生理学の立場から一応その発生機転について考えてみたい。
云う迄もなく聴覚は,外界にある音波が鼓膜に達し中耳を経て内耳に至り,蝸牛に於ける有毛細胞を振動させ,この刺激受容細胞の亢奮は蝸牛神経繊維を亢奮させ,そのスパイク放電の連鎖が終に大脳皮質に達し,こゝで音として感ぜられる事については異議はあるまい。而し乍ら耳鳴にはこの音波を必要とせず,上記経過中何れかの場所で,音波刺激によると同様の現象が自発的におこると考えられる。
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