特集 耳鼻咽喉科診療の進歩
歯性上顎洞炎
堀口 申作
1
1東京医科歯科大学
pp.727-733
発行日 1954年12月15日
Published Date 1954/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492201246
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まえがき
歯性上顎洞炎の歴史は,一般的にいうとVoss1)(1938)の論文を契機として,その前と後で二大別されると思う。本邦に於ても,それ以前に於て石井正博士2)阿久根教授3)を始め多くの研究が行われているが,一般の報告は未だ症例の報告に重点がおかれており,即ち,歯性上顎洞炎は歯性上顎洞炎として,明かに他の上顎洞炎とは異つた世界であるという考え方に立脚した立場がとられていたのではなかつたらうか。
Vossの論丈は"歯性上顎洞炎は存在するものか否か"という奇妙なものであるが,当時歯性上顎洞炎に関して一つの固定的な観念をもつていた人々に対して大きな衝撃としてひびいたことは確かである。Vossによれば,歯性上顎洞炎というのは鼻性上顎洞炎に過ぎない。急性副鼻腔炎は急性鼻炎から起るものであるが,いわゆる歯性上顎洞炎というのはこの際遇然にも,歯根が上顎洞底に交通して上顎洞の炎症巣と交渉をもつていただけの話しであつて之を歯性上顎洞炎といつて,一般の上顎洞炎と区別するのは甚だおかしな話しであるというのである。当時,Fischer,Ammersbach等という人が直ちに之に反論を加え,阿久根教授も亦,鼻腔と全く関係のない歯性上顎洞炎を例示されて,Vossの考え方に反対されたのである。
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