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奧家博士の論文を讀んで
林 義雄
1
1慶大
pp.124
発行日 1952年3月20日
Published Date 1952/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492200635
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- 文献概要
口蓋破裂患者の苦痛とする点は3つある.1は畸形,2哺乳困難,3は発音障害即ち開放性鼻声である.畸形は兎唇を伴わなければそして話をしなければ他人にはわからない.哺乳困難は栄養障害を起して重大な結果を惹き起す.然し熱心な両親の努力によつてこれも大体克服出来ることは周知の事実である.残る点は結局発音障害であり,これがために患者は成人しても劣等感を覚え非社交的となる.以前にも述べたことがあるように,口蓋破裂の治療はこの発音障害の矯正を目標にしなければ単に破裂縁を閉じるだけでは不充分である.単に閉じることだけでもむずかしいのにその上発音までは手が届かないと云うのが現状である.
勿論手術的に閉じることが出来而も発音も良くなれば奧家博士の云う通り理想的であろうが,そう旨くはゆかない.昭和11年伯林の国際音声言語障害学会でのErnst(独)とBagger(スウエーデン)の論争を想い起す.外科医のProf Ernstは手術で100%治るから断然手術すべきであると主張するに対し,言語障害専門のBaggerはProtheseを主張して讓らなかつた.外科の立場からと言語障害専門の立場と夫々自分の領域から論じていて協力する意向のないことは歎かわしいと思つた.これはその儘日本の現状にも当てはまることであつて,手術はした後の発音はそちらに頼むと云うのでなく,手術前に協力意見を述べあつて,手術をしたらどう云う風にやるか,或は一部プロテーゼで補うかを前以て相談してやることが望ましい.
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