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平成30年度が始まった.その幕開けとなる本号の「扉」は,東芝林間病院の山田晋也先生にご寄稿いただいた.研修医時代の苦悩から「脳の水」について研究を始め,新たな発見に翻弄されながらも自らの道を切り開き,自身が新たな発見者に辿り着くまでの過程は,まさに科学者の真骨頂である.不思議な縁で,山田先生と小生は研修医時代に数カ月間同じ病院に勤務していた.苦悩の連続であった忘れがたき青春時代に,医局で寝食を忘れて医学を語り合った熱い日々が,走馬灯のように蘇ってきた.各種利尿ホルモン,アクアポリン,グリンパティックシステム,paracrine systemの次に明らかとなる脳髄液循環代謝の真実で,脳の腫れがコントロールされ,脳神経外科医の術後管理が楽になる日が来るのは,そう遠くないのかもしれない.
次の「総説」は,「炎症を通し脳動脈瘤を理解する」である.青木友浩先生は,脳動脈瘤が抱える問題の複雑さを,unmet medical needsとして,その謎を紐解く鍵として炎症に焦点を当て,多面的な研究成果より脳血管壁の慢性炎症性疾患により脳動脈瘤は形成されるとしている.ならば,脳動脈瘤の治療は炎症制御因子を標的とした薬物治療が可能となり,大きなパラダイムシフトが起こるかもしれない.「研究」は2編掲載されている.堀恵美子先生は5年以上にわたり症例を蓄積して検討した結果,急性劇症型後頚部痛で発症するのが典型的と思われている椎骨動脈解離には,実は非突発性で軽度な痛みで発症するケースが比較的多く,片側性かつ持続する後頚部痛などを本疾患の鑑別診断に加えるべきと注意喚起されている.また,前田一史先生は,直径3mm以下の微小脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の具体的な手技の工夫と,その操作の注意点を丁寧に記載している.「テクニカルノート」では,伊藤美以子先生が,ラトケ囊胞の神経内視鏡によるeTSSの際に,下垂体機能温存を図るため,神経内視鏡の特性を生かし,ハイスピードドリルによる開窓部位を尾側端に持ってくる工夫を述べている.連載「機能的脳神経外科最新の動向」の第4回では,中谷光良先生が,Wide-band EEGを用いた焦点診断として,グリアとニューロンの特性を検証し新たなアプローチを提唱している.「症例」も興味深い報告が多く,「春眠暁を覚えず」どころか読み耽って「不眠症」にも陥りかねない.読み応えのある構成に読者の皆さんの満足度は如何であろうか.
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