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今月号の内容は,藤岡正導先生が「扉」に書かれている「感謝の気持ち」から始まり,最後に福永篤志,河瀬斌先生方の「コラム:医事法の扉」の56回に及ぶ連載の最終回を記念しての鼎談で「医療訴訟における医師の説明義務不足」についての「予防論」に終わる,現在の医療が抱える社会的諸問題を包括する構成となっている.救急患者が搬送され,その疾患が脳卒中や頭部外傷などの脳疾患であれば,脳神経外科医はすべての予定をキャンセルしてでも,家族の冷たい視線を背中に受けながらも,その患者さんを救命すべく,昼夜を問わず全身全霊を傾けて治療をする行為は昔も今も変わらない.医療技術や診断機器の向上により,その治療成績は以前に比べて,格段に進歩している.にもかかわらず,医療訴訟は収まるどころか,むしろ増加の一途をたどり,ひいては,医療行為の萎縮などの社会現象が起こっている.医療従事者と患者側のお互いの信頼関係を失い,負のスパイラルの行き着く先に未来はない.そんな状況を打破するためにも,脳神経外科医はさらなる学習を余儀なくされる.今回の内容は,特にわれわれが日常診療に配慮しなくてはならない重要な情報が満載である.まず総説では,われわれが救急外来で最も遭遇する機会の多い重症頭部外傷について,中川敦寛先生が「重症頭部外傷におけるモニタリングと集中治療」の最新情報を端的にまとめられている.特に,受傷時の一次侵襲のみならず,その後の二次侵襲をいかに予見しそして予防処置を迅速に対応できるかが,わかりやすく解説されている.また,わが国に多いもやもや病に対する手術中の注意点やその後の管理についての知見を東保肇先生が要領よくまとめている.脊椎脊髄外科は手術中のトラブルで訴訟になるケースが多いが,それを少しでも軽減するべく,ミストイリゲーションシステムが開発され,ドリリングの際の発熱を予防し,より手術を安全にできる手法が安原隆雄先生から報告されている.さらに,今回から新井一先生のプランニングによって,「先天奇形シリーズ」が始まった.これこそ,医師がどのように説明するかによって,その後の信頼関係に大きく関与する疾患の代表格であろう.白根礼造先生が書かれているこのような症例に遭遇したときに,どのように対応すべきなのか.脳神経外科医が学ばなくてはならない最新情報が今回も満載である.
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