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全世界的に指導者の劇的交代やOveractionが話題となった2016年度が終わり,まさに先行き不透明な新年度が始まった.本号の「扉」では,田宮隆先生が「記憶の真空パック」と題し,Actionを起こす時の思考哲学を学生時代のテニスの試合に擬えて解説されている.「この一球は絶対無二の一球なり」の境地は,私自身も往年のテニスプレーヤーであったため,未だに鮮明な記憶として甦ってくる.胸のすくようなスマッシュやサービスエースの一方で,痛恨のダブルフォルトやバックアウトなど,悲喜交々の青春ど真ん中の記憶はなんと爽快なことだろうか.卒後数十年を経たが,われわれ脳神経外科医は,まさに一瞬も気の抜けない緊張感の中で,常に超高速PDCA cycleを巡らせながら,最高の医療を求めて行動(Action)している.また,脳神経外科を志す若き医師が再び増加傾向に転じてきた現在,われわれは若手の指導方法を計画し,実行に移し,そしてその評価の後に改善していかなくてはならない.患者の病態変化は待ってくれない.瞬時の判断がすべてに関わる.まさに,目の前に飛んできた白球を瞬時に判断して打ち返す,あの時の心境に酷似している.脳神経外科医の宿命はなんと壮絶なことか.命果てるまで,この戦いは続くのであろう.
さて,本号は年度始めを飾るに相応しい力作揃いである.坂本好昭先生の「頭蓋骨縫合早期癒合症の治療法と手術時期について」は,地道な努力を重ねられた先駆者の一途な想いが込められた大作である.貴重な術中写真とともに各種治療法のポイントが記され,その内容の奥深さは読者を圧倒する.脳腫瘍手術に関する連載では柴原一陽先生の「第四脳室腫瘍に対する開頭術」が掲載されている.術中体位,皮膚切開,術中顕微鏡操作中の神経血管局所解剖の確認など,基本と応用が詳述されており,頭蓋底外科手術の熟練者ならではの解説である.森下登史先生の「ロボットスーツを用いたニューロリハビリテーション」は,豊富な経験と膨大な資料を基に,本領域の現状とHALを用いた治療法がわかりやすく解説されている.さらに,研究や症例報告も多数掲載され,若手脳神経外科医の意欲的な報告が目白押しである.特に,医学部6年生が共同執筆した症例報告は,学生の真摯な態度が論文に込められており,心を打つ.彼らが,将来脳神経外科医として活躍してくれることを祈念している.
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