Neurological Surgery 脳神経外科 45巻4号 (2017年4月)

記憶の真空パック 田宮 隆
  • 文献概要を表示

 香川県に住んで既に15年になる.現在もうどんを食べながら,地域医療の充実に精を出しているつもりである.特に若い世代の学生や研修医の先生に香川で医療を続けてもらうために,できることは「まんでがん」と本誌「扉」(36巻6号)に書いて,既に10年近くが経過した.その1つとして,学生クラブの顧問としてもできるだけ時間を割いて学生たちとの交流にも努めている.昨年の夏は,第68回西日本医科学生総合体育大会が隣の徳島県で行われたので,私も久しぶりに硬式テニス部の顧問として応援に行ってきた.焼け付くような暑い夏の炎天下に,一日中試合や応援に熱中している部員たちの姿をみて,熱いものが込み上げてきたが,私自身も学生時代,硬式テニスのクラブ活動にのめり込みすぎた時代があったように思う.

 今でも,その当時の記憶を,時々思い出す.特に,悔しかったことは鮮明に甦ってくる.音楽や写真は「記憶の真空パック」であり,瞬時に昨日の出来事のようにその時代に戻ることができる.先日,実家を整理していると,高校,大学時代の硬式テニスの試合のドロー(組み合わせ表)を発見した.私が適当に押し入れにしまっていた物を,母がきちんと整理して残してくれていたようだ.一瞬のうちに,青春時代に戻ってしまった.あの頃の厳しい練習,練習なくして強くなれないと先輩に指導され(しごかれ),授業をサボって練習し,練習した後は,どうやって試合に勝つか,仲間と遅くまで歓談し(酒を飲み)…….テニスの試合に勝つための英単語として,その当時から集めてきた言葉を少し紹介したい.また,これを機に少し覚えやすいように整理した.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 頭蓋骨縫合早期癒合症は,何らかの原因で頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまい,頭蓋骨の正常な発育が阻害されるために,脳組織の正常な発達が妨げられてしまうと同時に頭の形が変形する疾患である.

 臨床的には,病変が頭蓋冠に限局される非症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症と,病変がさらに頭蓋底から顔面,四肢に及ぶ症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症(Crouzon症候群,Apert症候群,Pfeiffer症候群など)に大別している.それぞれにおいて,早期癒合した縫合とその頭蓋形態から舟状頭,斜頭,三角頭,短頭,尖頭,クローバー様頭蓋などの変形がみられる.

 本疾患の治療法はこれまでにさまざまな術式が報告されている.一方で,本疾患は頭蓋変形の程度や,後述するように治療時期もさまざまである.そのため1つの術式に固執することなく,それぞれの術式の利点と欠点,変形や治療時期から,最適な治療法を選択すべきである.本稿では筆者らが実践している治療時期と変形からみた手術方法を概説する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.背 景

 本邦における維持透析患者数は増加傾向で,特に65歳以上の年齢層での増加に伴い,維持透析患者全体の平均年齢も上昇している4,8).また一方で,年齢の影響や維持透析患者特有の易転倒性のため3,10,15),頭部外傷を起こしやすく,透析患者の頭部外傷管理を少なからず経験するようになっている.

 頭部外傷において維持透析は転帰不良因子であるとの報告があり,既存の合併症なども重なり管理に難渋することが多く6,12),特に血液透析の場合は血腫増大の問題だけでなく,不均衡症候群などによる脳浮腫の増悪により頭蓋内に影響を及ぼすことが知られている.頭蓋内圧亢進やけいれん重積の管理に苦慮し不良な転帰となった報告もあるが5,7,9),透析患者における頭部外傷の管理に関しては詳しい指針がないのが現状である.

 本研究では,頭部外傷管理におけるけいれん発作出現および転帰に与える因子について,維持透析患者と維持透析を行っていない患者との間で比較・検討し,維持透析患者における頭部外傷の管理について考察する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 従来の腰椎後方固定術の問題点として,fusion diseaseと呼ばれる術後長期に遺残する腰部愁訴があり,椎弓根スクリュー挿入や骨移植母床確保のための広範囲な側方展開,圧排による筋阻血,後枝内側枝損傷による脱神経,手術操作に伴う直接的な筋挫傷などが原因とされる15).経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)を用いた低侵襲腰椎椎体間固定術(minimally invasive surgery-transforaminal lumbar interbody fusion:MIS-TLIF)は傍脊柱筋損傷を最小限とすることを目的の1つとしており,広く普及しつつある2).一方,腰椎固定術の術後合併症に隣接椎間障害(adjacent segment disease:ASD)があり,再手術となることも稀ではない.今回われわれはMIS-TLIF施行後,ASDによる再手術が必要となる頻度ならびに危険因子について検討したので報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 耳鳴は心拍と同期する拍動性耳鳴と,同期しない非拍動性耳鳴に分類される14).拍動性耳鳴の原因として多様な疾患が報告されている7,14).今回われわれは,拍動性耳鳴を認めた中耳内頚動脈走行異常の1症例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 新生海綿状血管腫(de novo cavernous angioma:de novo CA)は,撮像時期の異なるmagnetic resonance imaging(MRI)で,新規に検出されたCAと定義される4).CAは長く先天性疾患と考えられてきたが10),遺伝子異常6)や放射線治療7)などに伴う後発例の報告が散見される.

 今回われわれは,6年前には描出されなかったde novo CAの1例を経験した.本例における発生機序を推測し,文献的考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)は,動脈と静脈間に毛細血管を介さない短絡を来す疾患であり,外傷性を除いては胎生早期に発生する先天性異常と考えられている.AVMは通常は頭蓋内に発生することが多く,頭蓋外に発生することは稀で,特に耳下腺に発生するAVMについての報告は非常に少ない.今回われわれは,癌抑制遺伝子であるphosphatase and tensin homolog deleted on chromosome 10(PTEN)遺伝子異常症候群の1つであるCowden病に合併し,耳下腺深葉部に生じた巨大AVMに対して術前塞栓術および摘出術を行い,良好な結果を得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 転移性脳腫瘍の原発巣としては肺癌が最も多く,通常は脳転移がみられるとaggressiveな経過をたどり,生命予後が極めて悪くなる.今回われわれは,左上葉高分化肺腺癌に対して摘出術後化学療法を施行後,極めて緩徐に両側前頭葉に出血を伴ったmass lesionの増大が認められた1例を経験した.経過観察中に同病変に一致してmassiveな出血がみられたため,開頭術を施行し,病理所見でadenocarcinomaと診断した.本症例は肺癌脳転移にもかかわらず約2年半の経過で極めて緩徐に無症状のまま進行した症例であり,報告を行う.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 大孔部髄膜腫はすべての頭蓋内髄膜腫のうちおおむね1.5〜3%5,8,21),後頭蓋窩髄膜腫の6.5%と言われており,比較的稀である5,8).その多くは後頭部痛,後頚部痛,歩行障害,感覚障害など多様な症状で発症するが5),舌下神経麻痺単独で発症することは稀である.

 今回われわれは,舌下神経麻痺のみで発症した大孔部髄膜腫をtranscondylar approachにて全摘出し,症状が改善した症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 45歳 女性

 現病歴 突然の頭痛・嘔吐を訴え当科に救急搬送された.

連載 脳腫瘍の手術のための術前・術中支援

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 第四脳室周囲に発生する腫瘍は,髄芽腫,上衣腫,脈絡叢乳頭腫,そして毛様細胞性星細胞腫など多岐にわたる.腫瘍の進展方向や高位によるが,用いられる代表的手術アプローチとして,経小脳延髄裂アプローチ(cerebellomedullary fissure approach:CMFA)と後頭部経テントアプローチ(occipital transtentorial approach:OTA)が挙げられる.脳腫瘍摘出および血管性障害への対応を通じて,脳神経外科手術の中で最も頻用されるpterional approachと同様に,CMFA, OTAはいずれも専門医取得後確実に習得すべき技術と言える.しかしながら,第四脳室周囲の腫瘍は脳腫瘍治療を専門としていれば遭遇する可能性はあるが,テント上病変に比較すると頻度は低く,これらのアプローチのポイントを理論的に理解した上で,実践し,反芻する機会は多くない.ただし,CMFA, OTAにおいては確認して剝離・切断すべき特徴をもった構造が多いため,定型的アプローチ方法の典型と言っても過言ではなく,まずはアプローチのポイントを理解することが肝要である.

 本稿では,若手術者を対象とし,CMFAにおける皮切から開頭,そして顕微鏡操作に関して,基本事項を細かく記載した.手術手技は伝統芸と言ってもよい部分があり,その流派によってまったく異なった方法をとっていることを理解した上で,筆者らがなぜそのように行っているかを記述した.なお提示症例は,腫瘍が小さく正常解剖を理解しやすいものを選択した(Fig.1A).

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科では脳卒中,脳腫瘍,そして脊髄疾患など幅広い領域における疾患を治療するが,これらの疾患の随伴症状や手術合併症をいかに改善させるかは,治療後の患者の日常生活動作と生活の質に大きく関わる問題である.そのため,本邦では脳神経外科医は救急医療や手術に関わるのみならず,ニューロリハビリテーションの分野でも大きな役割を果たしてきた.近年,保険診療におけるリハビリテーションの役割についても見直しが行われ,いかに“効果的な”治療が行われるかが重要視されるようになった.『脳卒中治療ガイドライン2015』の中でもロボットを用いた歩行訓練や,特定の動作の反復を伴った促通反復療法などの訓練が推奨されているのみならず,海外においては脊髄損傷による歩行障害の治療を目的としたロボットリハビリテーションに医療保険が適用されるなど,ロボットがニューロリハビリテーションの領域に及ぼす影響は年々大きくなっている.本邦においても2016年4月から一部の希少神経難病に対してロボットによる処置料が保険適用となっている.

 リハビリテーション用ロボットにはさまざまなものが存在するが,その代表がHybrid Assistive Limb(HAL®:CYBERDYNE,茨城)である.HALは本邦において保険が適用されている唯一のロボットであり,さまざまな研究によってその効果が示されている.本稿では,HALを中心としたロボットリハビリテーションの現状と将来的な展望について記す.

--------------------

欧文目次

お知らせ

「読者からの手紙」募集

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 若林 俊彦
  • 文献概要を表示

 全世界的に指導者の劇的交代やOveractionが話題となった2016年度が終わり,まさに先行き不透明な新年度が始まった.本号の「扉」では,田宮隆先生が「記憶の真空パック」と題し,Actionを起こす時の思考哲学を学生時代のテニスの試合に擬えて解説されている.「この一球は絶対無二の一球なり」の境地は,私自身も往年のテニスプレーヤーであったため,未だに鮮明な記憶として甦ってくる.胸のすくようなスマッシュやサービスエースの一方で,痛恨のダブルフォルトやバックアウトなど,悲喜交々の青春ど真ん中の記憶はなんと爽快なことだろうか.卒後数十年を経たが,われわれ脳神経外科医は,まさに一瞬も気の抜けない緊張感の中で,常に超高速PDCA cycleを巡らせながら,最高の医療を求めて行動(Action)している.また,脳神経外科を志す若き医師が再び増加傾向に転じてきた現在,われわれは若手の指導方法を計画し,実行に移し,そしてその評価の後に改善していかなくてはならない.患者の病態変化は待ってくれない.瞬時の判断がすべてに関わる.まさに,目の前に飛んできた白球を瞬時に判断して打ち返す,あの時の心境に酷似している.脳神経外科医の宿命はなんと壮絶なことか.命果てるまで,この戦いは続くのであろう.

 さて,本号は年度始めを飾るに相応しい力作揃いである.坂本好昭先生の「頭蓋骨縫合早期癒合症の治療法と手術時期について」は,地道な努力を重ねられた先駆者の一途な想いが込められた大作である.貴重な術中写真とともに各種治療法のポイントが記され,その内容の奥深さは読者を圧倒する.脳腫瘍手術に関する連載では柴原一陽先生の「第四脳室腫瘍に対する開頭術」が掲載されている.術中体位,皮膚切開,術中顕微鏡操作中の神経血管局所解剖の確認など,基本と応用が詳述されており,頭蓋底外科手術の熟練者ならではの解説である.森下登史先生の「ロボットスーツを用いたニューロリハビリテーション」は,豊富な経験と膨大な資料を基に,本領域の現状とHALを用いた治療法がわかりやすく解説されている.さらに,研究や症例報告も多数掲載され,若手脳神経外科医の意欲的な報告が目白押しである.特に,医学部6年生が共同執筆した症例報告は,学生の真摯な態度が論文に込められており,心を打つ.彼らが,将来脳神経外科医として活躍してくれることを祈念している.

基本情報

03012603.45.4.jpg
Neurological Surgery 脳神経外科
45巻4号 (2017年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

文献閲覧数ランキング(
1月14日~1月20日
)