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はじめに
記憶障害を記述するためにはまず「記憶」を定義しなければならない。記憶の意味は幅広く,定義は厄介である。記憶という語彙そのものは細胞レベルから臓器レベルの活動にまで使われている。行為の水準においても記憶の意味は曖昧である。たとえば,失語,失行,失認は便宜上記憶の範疇から外して論じるのが一般的であるが,このことは失語,失行,失認が記憶という水準の障害を含まないということを意味しているわけでは決してない。
本論では一応,記憶を「新しい経験が保存され,その経験が後になって,意識や行為のなかに再生されること」と定義しておきたい(山鳥,1987a)。この場合の「経験」とは個体が環境との相互作用の結果,新しく獲得してゆく経験で,種族に固有なものとして神経系に組み込まれている経験,すなわち,歩行能力とか情動表出能力などは含めないことにする。「経験が保存されること」で終わらず,「再生されること」という語句を加えたのは,再生されなければ測りようがないからである。もっとも,われわれの行為を自省してみると,心の中に埋めたままで,一度も表出せずに終わる経験も少なくないはずである。しかし,客観的には,再生されて初めて記憶の有無が確認できるわけで,再生されないものは,記憶から失われたと判断せざるをえないことになる。
Recent development of amnesia studies wasreviewed.
Four topics were dealt with under headings of (1) anterograde and retrograde amnesia, (2) categorization of memory contents, (3) forms of memory retrieval and (4) anatomical substrata of amnesia.
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