特集 脳のシンポジウム
主題 脳と行動
指定発言 脳の機能生化学的研究
塚田 裕三
1
1慶応大学医学部生理学
pp.483
発行日 1966年10月25日
Published Date 1966/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1431904327
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脳の生化学的研究は脳のいとなむ機能が,きわめて複雑でありまた特殊であるために,その方法において多くの特徴を持つている。そしてそのめざすものは脳の機能の化学的背景を明らかにすることにある。しかし脳は摘出すればただちにその機能を失い大きな死後変化による侵襲を受けるのであつて,このことは脳の機能と対応した化学的変化を追求するうえに大きな障害となる。そこで死後変化を最少限にくいとめるために液体窒素などで瞬間的に凍結固定するのもひとつの方法である。このような点を考慮したうえで脳の機能生化学的研究を進めるひとつの方法は,脳に刺激を与え脳の機能状態の変化に対応して脳内で起こる物質変化を追及することである。この結果脳内のアンモニア,アセチルコリン,高エネルギー燐酸エステル,核酸などの代謝が変化することが確められている。しかしこのような方法のみでは脳内で起こつた化学的変化が脳の機能と一義的に結びつくか否かを決定することはできない。そこで第2の方法として前とは逆に脳内で,一定の化学的変化を起こさせたとき,脳の機能がいかなる変化を受けるかを追及することも必要である。フェニールアラニンの先天的代謝異常として知られるフェニールケトン尿症は自然が与えた貴重なひとつの実験であるが,実験的にもこのような状態を作りうるならば,物質代謝と脳の機能を結びつけるのに有力な手段となる。
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