連載 死にゆく患者と、どう話すか—國頭先生の日赤看護大ゼミ講義録[3]
コミュニケーション・スキルの基本を身につける
國頭 英夫
1
1日本赤十字社医療センター化学療法科
pp.325-333
発行日 2016年7月15日
Published Date 2016/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1430200089
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インフォームドコンセントの原則
前回の続きで、インフォームドコンセントについてちょっと考えてみます。昔からパターナリズム(父親的温情主義)が医者の伝統でした。それが、ナチスの人体実験に医者が参加したという衝撃で、「温情」の大原則が崩れてしまった。ナチスだけだったら人類史の例外扱いできたかもしれませんが、人権の本場のはずのアメリカでもタスキギー事件というのがありました。これは黒人の梅毒患者を、ペニシリンなど有効な薬剤が開発されていたにもかかわらず、あえて無治療で経過を観察したという非人道的な人体実験です。このように医者は放っておけばなにをするかわからない、だから歯止めが必要というわけで、1964年にヘルシンキ宣言が制定されました。人間を対象とした研究の規範が定められたのです。その後何度も改訂され、今にいたっています。
インフォームドコンセントはその後、人体実験のような研究的医療のみならず、日常診療でも大原則となりました。日常診療で、これがベストと「わかっている」治療でも本人からの同意が要る。一般にはそれがベストであっても、自分がそれを望むかどうかは別である、自分の運命は自分で決める、という、自己決定権の考えが導入されたからですね。
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