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はじめに
今回は,遺伝カウンセリングの現場におけるカウンセラーの基本的態度とコミュニケーション・スキルについて解説したい。医師の診療とカウンセリングの違いがあるのですべてとはいわないが,日常診療にもお役に立てる部分があれば幸いである。
最初に2つのことを強調しておきたい。第1にカウンセリングのスキルとは「上手に説明するための技術(プレゼンテーション)」でも,「相手を説得するための技術(ディベート)」でもない。クライエントが「話しやすいような雰囲気をつくる」ための技術なのである。前回「傾聴」の重要性について解説したが,相手の話を引き出し,真実を語らせること,そして相手の気持ちを読み取って今後のクライエントの行動について予測を立てる心理的対応技術なのである。
「でも,最終的にはクライエントの行動変容を目的にしているのではないか。話を聞いただけで相手の行動が変わるのか。」と疑問の声が上がりそうだが,これらの基本的な対応から,クライエントを自己洞察させ,好ましい自律的決定へと導くのである。相手の力を上手に利用するのである。カウンセラーが上手にプレゼンテーションをしたり,巧みにディベートを行う必要はないことを理解していただきたい。コラムにも紹介したが,能弁な人はかえってカウンセラーに向かないといわれる所以である。
第2に,コミュニケーション・スキルを上達させるためには,カウンセリング理論による裏付けが効果的である。もちろん経験も重要であるが,経験だけに頼ると多くの失敗経験と長い時間が必要になる。日常使っているスキルについてカウンセリング理論から裏付ける習慣をつけておくと,未経験の場面でも応用が効くはずである。プロフェッショナルのカウンセラーと素人の違いは経験の違いだけでなく,理論についての理解の差であるといってよい。
今回,紹介するスキルはロジャースの理論を基本にしているが,種々のカウンセリング技法にはその技法(理論)特有のスキルがある。なかにはロジャースと異なる考え方もあるだろうが,医療現場で働く医師はまずロジャースを学んで欲しい。特にカウンセリング・マインドといわれるカウンセラーの基本的態度にはロジャースの考え方から学べるものがとても多いと考えている。
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