Feature Topic 早期緩和ケアの正体
Temel論文のインパクトと現在
—論考—Temel論文を読み解く—がん診療と二者関係
金 容壱
1
1聖隷浜松病院化学療法科
pp.40-47
発行日 2016年2月15日
Published Date 2016/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1430200039
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
「金と言うものを真に意味づけるのは、その暗い夜の様な無名性であり、息を呑むばかりに圧倒的な互換性なのだ」*1。その無名性と互換性を担保に、自由が手に滑り込む。これまでも、カネは力だ、道具だ、魔物だとさまざまなところで表現されてきたが、それは自由が力であり、道具であり、魔物であるからなのだ。
銀行家は預金者のカネを守り、流通させ、殖やす。銀行家にとっての正義がカネであるように、腫瘍治療医にとってのそれは時間である。腫瘍治療医は根治を目指す。治るとその病気から解放される。根治が見込まれない場合は寿命を延ばす。そのため、治療方針の策定の際は根治する可能性が高い治療、そして延長する生存期間が長い手段を優先するし、生存期間のなかでも「状態がどうであれ生きている時間」を示す全生存期間*2を絶対視している。
一方、緩和ケア専門職は同じくがんを扱うが、違った価値基準をもつ。負担なく生活を営めること、すなわち生活の質(quality of life;QOL)を重視する。ほとんどの緩和ケア病棟では心肺蘇生を行なわないことを入棟の条件としている。がんの最終末期で行なわれる儀式的な心肺蘇生術でたとえ数十分寿命が延びたとしても、厳かな別れの時間を家族から奪う弊害に引き合わないという思想からである。つまり、意味のない時間の延長より、QOLを重視するという宣言である。これらの事柄が、これから紹介するある論文を読み解く鍵になる。
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.