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Case
患者:78歳、女性。3年前に夫と死別した後、52歳の息子と同居している。
既往歴:高血圧、慢性心不全、認知症
病歴:高血圧と慢性心不全のため当院に2カ月ごとの定期通院を続けていた。通院には息子が自家用車を運転して連れてきてくれていたが、息子はいつも診察室に入らず、親身にケアしている印象ではなかった。患者は少しずつ認知症が進んでいるようであり、怠薬が目立ち、身だしなみも乱れてきていた。そのため、息子に介護保険の申請をはじめ、訪問介護・看護の利用を提案したが「まだ自分で面倒を看られます」と拒否された。
通院予定日に「数日前から寝たきりになったので連れて行けない。往診にしてほしい」と息子から連絡があり、同日往診した。患者はなんとか返事はできる意識状態であったが、バイタルを測定すると体温37.8℃、血圧95/60mmHg、脈拍110回/分、SpO2 95%(室内気)であった。肺炎の疑いがあるとして、入院での精査加療を勧めるも、息子は経済的な理由で拒否。そのため抗菌薬の点滴を行い、しばらく訪問看護師が点滴をなどの処置をする予定とした。
翌日看護師が点滴に行ったところ、患者の意識レベルはさらに低下しており、血圧83/50mmHg、脈拍数130回/分とショックバイタルであったため、救急要請を息子に勧めたが「認知症もひどく、もし助かったとしても今後面倒を看られない。このまま自宅で看取りたい」と言われた。そのため息子の意向を尊重し、自宅で看取る方針となった。翌朝、息子から「息をしていない」と連絡を受け往診し、死亡確認を行った。死亡診断書に「Ⅰア細菌性肺炎、Ⅱ慢性心不全」と記載し発行した。
それから1年後、警察から連絡があり、息子を特殊詐欺事件で逮捕し、余罪を調査していたところ母親の死亡時に多額の保険金が支払われていたことが判明したという。「母親の死について不審な点はなかったか」と聞かれ、「息子のケアに違和感を覚えたことはあったが、特別不審とは思わなかった」と答えたが、真実はどうであったか心残りであった。
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