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Case
患者:43歳、女性
既往歴:特になし
病歴:某日、オートバイを運転中、交差点で出会い頭に自動車と衝突したとのことで、当院へ救急搬送となった。左多発肋骨骨折、外傷性気胸、左大腿骨骨折を認めたため、胸腔ドレナージを行い、呼吸状態を含めたバイタルは安定。翌日、左大腿骨の整復手術が行われた。手術後、回復室に移動し経過観察していたが、手術5時間後に急激な血圧低下と意識消失が出現し、心肺停止(CPA)となった。救急救命処置を行うも蘇生することはなく、死亡宣告した。泣き崩れる家族を前に、主治医は「できる限りの処置をしたのですが…」と説明するほかなかった。
交通事故を捜査していた警察官から司法解剖となると告げられ、カルテの提供を求められた。電子カルテを印刷しながら「司法解剖はどこでするのですか?」と聞いたところ、主治医の出身大学で、学生時代に授業を受けたことのある法医学の教授が執刀することがわかった。救命できなかった理由がわからず死因を知りたいこと、これまでの経過や手術の経過を直接説明したほうがよいと考え、司法解剖に立ち会ってもよいか警察に尋ねたところ、執刀医の許可が得られ、立ち会うこととなった。
司法解剖前に法医学教室でCTが撮影された。「解剖するのにCTなんて意味があるのか?」と思いながらも、CT所見と治療経過を説明しようとした途端、教授に「説明は不要」と冷たく遮られた。その後、解剖を間近で見学したが、一見して致命的な病変はないように思えた。解剖後に「死因は何だったんですか?」と尋ねたが、「後日、警察に鑑定書を発行しますので、警察に聞いてください」と言われた。主治医は愛想の悪い教授に対し「臨床のことを何もわかっていないのに、聞こうともしないで何がわかる」とずいぶん立腹した。
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