ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学・19
腐敗したご遺体と孤独死
森田 沙斗武
1
1大阪はびきの医療センター 臨床法制研究室
pp.1200-1202
発行日 2024年10月15日
Published Date 2024/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429205045
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Case
患者:63歳、男性
既往歴:アルコール性肝障害
病歴:生活保護を受けながら独居生活をしている。半年ほど前に衰弱状態で倒れて救急搬送され、脱水と肝障害を指摘され入院を勧められたが、拒否し帰宅した病歴がある。近隣住民の話では、以前は泥酔した状態で歩いている姿を見かけたが、最近は姿を見かけなかったという。
某日、いつもは生活保護の支払日に家賃が振り込まれるが、それがないため、管理会社が訪問するも応答なし。そこで、督促状を自宅の郵便受けに入れた。その後、1週間経っても連絡がないため再度訪問したところ、郵便物がそのままの状態であったため、安否確認のために警察官立ち会いのもと合鍵で侵入したところ、布団上で高度腐敗したご遺体を発見した。念のため救急要請するも、腐敗のために搬送されなかった。鍵が施錠された状態であり金銭の動きに不審な点もなく、警察は事件性なしと判断し、警察医が検案することとなったが、本来の警察医は夏休み中で、当クリニックが担当することとなった。
ご遺体は全身緑褐色で全体に膨れ上がり、蛆虫が多数付着しており、異臭も強く正視に堪えない状態であった。正義感をもって診察を行ったが、硬直もなく死斑もわからず、死因に検討もつかなかった。現場の警察官に「心臓でしょうか?」と尋ねられ、「こんな状態で死因なんてわかるわけがない」と内心思ったが、何か死因をつけなくてはならないと思い直し、「そうですね、心臓かもしれませんね」と答えた。最終的に「虚血性心疾患」を死因とした死体検案書を発行したが、自分自身の対応がこれでよかったとは思えなかった。
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