ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学・12
—ご遺体の検査❸—「穿刺」の応用
森田 沙斗武
1
1大阪はびきの医療センター 臨床法制研究室
pp.326-329
発行日 2024年3月15日
Published Date 2024/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204729
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Case
患者:63歳、男性。妻と死別してから独居。
既往歴:アルコール性肝障害
現病歴:酒浸りの生活が続いており、近隣に住む長女に健康を心配され、3年前に当院を受診。血液検査にて著明な肝障害を認め、栄養状態も不良であったため、「このままの生活では数年で亡くなってしまうかもしれませんよ」とアルコールを控えるよう説明したが、飲酒をやめる意思はなさそうであった。長女の話では、「今後、病院には行かない」と断言していたという。体調を心配した長女が数日に1回程度の頻度で自宅に様子を見に行っていた。
某日14時頃、長女が自宅を訪問したが応答がないため、合鍵で室内に入ったところ、居間の床上に仰向けで倒れている患者を発見。意識がないため、14時14分に119番通報、22分に救急隊が現地到着、25分に硬直を認め不搬送決定となった。
警察の捜査により事件性はないと判断され、最後の受診歴が当院であったため問い合わせがあった。当院にて「数年後に亡くなる」と言われ、実際に亡くなったことから、当院で死亡診断書が書けないかと相談された。拒否することもできたが、連載『ご遺体の診断学』で勉強していることもあり了承した。
検案してみると、ご遺体に黄疸や腹水による腹部膨満を認めず、肝硬変に特徴的な身体所見は確認できなかった。後頭窩穿刺で髄液は透明であり、心臓穿刺で心臓血に凝血が混じることを確認したため、死因は「アルコール性肝障害」で矛盾しないと考えられた。そのため死亡診断書を作成し、警察や遺族からも喜ばれたが、「矛盾しない」ではなく、もう少し確定的な診断に至る方法がないかとモヤモヤした。
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