ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学・7
ご遺体の「顔」を診ることと「入浴関連死」の問題点
森田 沙斗武
1
1大阪はびきの医療センター 臨床法制研究室
pp.1238-1241
発行日 2023年10月15日
Published Date 2023/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1429204503
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Case
患者:81歳、男性。妻と2人暮らし。
既往歴:高血圧、2型糖尿病
現病歴:当クリニックのかかりつけ患者であり、高血圧および2型糖尿病の内服治療中。収縮期血圧は100〜160 mmHgと変動が大きく、HbA1cは7.5%程度を推移。飲酒習慣や睡眠導入薬の使用はなし。
某日19時頃に妻と夕食をとったあと、20時頃から入浴を開始した。いつもは15分ほどで出てくるが、なかなか出てこないことを不審に思った妻が浴室を見にいくと、浴槽内で水没していた。20時23分に救急通報、30分に救急隊が現場に到着。心肺停止状態であった。、20時40分に救急病院到着。救急救命処置によりいったん心拍再開するも、つねづね延命治療を希望しないと言っていたという家族の話もあり、治療を中止した。21時35分に心停止し、死亡となった。救急病院から異状死の届出が行われ、警察が現場検証を行うも事件性なしと判断された。
警察から当クリニックへの通院および処方内容の確認があり応対したところ、警察医が不在のため可能なら死体検案書を発行してほしいと依頼された。警察から聞いた状況では入浴中の溺死と考えられ、その特徴である口腔内の泡沫を確認するだけで診断はつくだろうと快諾した。警察の送迎で救急病院に来たが、口腔内の泡沫は確認できず、溺死と診断できなかった。そのため、とりあえず死因は「虚血性心疾患」としたが、遺族から「溺れたのではないのですか? いつから心臓が悪かったのですか?」と聞かれ、もっともらしいことを言ってはみたが、バツの悪い思いをした。
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