連載 臨床神経学プロムナード—60余年を顧みて・1
Babinski反射(母趾徴候)—時代的背景:序論(1896)と本論(1898)がある
平山 惠造
1,2
1千葉大学(神経学講座)
2日本神経治療学会
pp.290-291
発行日 2021年3月1日
Published Date 2021/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201754
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「Babinski反射の原法は僅か28行である」と行数の少なさに関心をもって語られることが多い。しかし,この論文(1896)1)はBabinski徴候(反射)の序論で,本論はその2年後に発表された10倍ほどの論文(1898)2)とみるべきである。現象の記述も前報より詳細で,錐体路との関係を指摘したのはこの論文である。その後,更に足趾の開扇現象を追記して,ここに足底皮膚反射は完結した(1903)3)。初稿から7年の歳月を要している。
彼は何故この研究を行なったのか。時代的背景を少し遡ってみる。彼の師J.M.Charcotが「筋萎縮性側索硬化症」の研究成果をまとめて論述したのが有名な「神経系疾患の連続講義」4)に収載されている。その中でCharcotは錐体路病変(側索硬化)に対応する臨床所見として専ら痙縮(いわゆるspasticity)を挙げ,これを重視した。当時,既にCharcotはハンマーを用いていた様子が窺えるが(Charcotの別の講義である火曜講義の挿図にハンマーが描かれている),腱反射について触れていない。また,言うまでもなく足底皮膚反射にも触れていない。
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