- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
体温を超えるような猛暑が続く日本からシカゴ・オヘア空港に降り立つと,7月というのに少し肌寒い感じがした。涼しいシカゴで2018年7月22〜26日に行われたAAIC 2018の学会印象記をお届けする。会場はミシガン湖の湖畔にある全米屈指の巨大コンベンションセンター「McCormick Place」である(写真1)。アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)に関する世界最大の学会の熱気の一端を感じていただければ幸いである。本学会では,臨床への還元を意識した基礎研究,トランスレーショナル研究,そして新薬の治験を含めた臨床研究についてフォーカスがあてられている。幅広い領域をもれなく網羅するのは筆者(写真2)の能力を超えており,筆者の専門分野であるADのゲノム研究,バイオマーカー研究,新薬開発研究に絞って報告することをお許し願いたい。
ADのゲノム研究は,次世代シークエンサと解析数の大規模化でめざましい進歩を遂げている。本学会では,ゲノムワイド関連研究(GWAS)や全エクソーム解析データを用いたポリジェニックリスクスコア(polygenic risk score:PRS)に関する発表が目についた。PRSとは,比較的弱い効果の遺伝子多型が数多く集積することにより遺伝的な効果を発揮するという考え方である。Mayo Clinic Jacksonvilleの研究チームは,脳内免疫に関与する遺伝子にフォーカスをあてPRSを全エクソーム配列データで得られたバリアントを基に算出した。その結果,5つの遺伝子(TREM2,ATP8B4,IL17RA,FCGRIA,MS4A6A)がPRSに強く寄与していることを明らかにした。Duke大学のチームは,CRPと相関する全身炎症関連遺伝子の1,980の一塩基多型(SNP)を抽出し,Health and Retirement Studyに参加した8,546名のPRSを算出した。PRSが高い群は,有意に認知機能が低下していることが示された。Alzheimer's Disease Sequencing Projectからは,エクソーム解析データを用いたCNV(copy number variation)が発表された。5,318名のAD患者と4,604名の対照者の比較から,7p14のT cell receptor gamma遺伝子,6p21のTAP1/2とPSMB8/9のCNVがAD群で有意に変動していた。
Copyright © 2019, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.