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Alzheimer's Associationの国際会議AAIC2015が7月18〜23日に米国ワシントンD.C.において開催された。本会議はアルツハイマー病に関連して,基礎研究と臨床研究の成果が報告される,注目度の高い学会の1つである。7月のホリデーシーズンということもあり,リラックスした雰囲気もある一方で,重要な治験の結果が初めて公開されることもしばしばあるため,米国ではメディアの注目も非常に高い。また製薬企業の研究成果が報告されることも多く,さまざまな情報交換・研究者交流が精力的に行われている。非常に広い分野をフォローしている学会でもあり,印象記としては自分の研究分野に近い領域に関連しているのはお許しいただきたい。
基礎研究では,ここ数年の傾向であるが,タウ病態の脳内伝播に関する研究成果発表が多く見受けられた。特にグローバル製薬企業からは培養細胞系でのタウ凝集・伝播モデルの解析,特にiPS細胞由来のヒト神経細胞での結果が報告されていた。異常凝集蛋白が伝播する分子メカニズムに関してはいまだ不明な点が多いが,少なくとも創薬の観点ではスクリーニング系として再現性をもって利用できている感触が認められた。また細胞外にタウが放出されるというメカニズムは,抗体医薬の有用性を支持するともいえ,実際タウに対する免疫療法の報告も多く見受けられた。一方,発症メカニズムに関連して神経炎症反応やグリア細胞に注目が集まりつつあることも強く感じられた。これは近年のゲノム解析から,さまざまな炎症関連分子が遺伝学的リスク因子として同定されたことによる。特に本学会においてはミクログリアに発現しているリスク因子TREM2の分子病態が多く報告されていた。TREM2は那須・ハコラ病や前頭側頭葉変性症の原因遺伝子でもあることなどから,アルツハイマー病においてはアミロイドβ(Aβ)およびタウの下流にある神経細胞死に関与している可能性が考えられている。しかしin vivoモデルを利用する必然がある神経免疫学の難しさもあり,TREM2を含めていまだ詳細が解明されているとはいいがたく,その病的機能について研究者間で激しい議論が交わされていた。いずれにせよ,神経変性疾患において認められるグリア細胞による炎症反応が,単なる生体防御反応ではなく,むしろ積極的に神経機能の変調や神経細胞死など疾病発症機構に関連しているという可能性は,これらの脳内炎症反応制御が新たな創薬標的メカニズムとなり得ることを示しており,今後の展開に期待できると感じた。
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