- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
本誌において2013年8月号から2014年12月号まで「神経疾患の疫学トピックス」という連載を執筆させていただいた。この企画を考えたのは,2005年の『Brain』誌にイタリアのプロサッカー選手集団における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症リスクが一般人口集団と比較して15倍高いという驚くべきデータが公表されて印象に残っていたからである。この研究で行ったことは1970〜2001年までにセリエAに登録された7,325名の選手中5名がのちにALSを発症したという事実を示しただけである。論文の長さも5頁しかなく『Brain』誌としては例外的に短いことも特徴であったが,この論文のインパクトは高く,現在までに172編の論文で引用されている。
もう1点は,この論文では一般人口とサッカー選手におけるALS発症率を比較するために標準化死亡比(standardized mortality ratio:SMR)という統計法が使われていたが,この方法を知らなかったし,理解できなかった。その後,多くの大規模疫学研究において,各種神経疾患における発症リスク,危険因子,保護因子が示されているが,いろいろな統計法が用いられており,やはりこれらを理解できなかった。臨床医(特に自分自身)の統計学の知識は限られているという問題点を感じていたところに,筆者の所属する病院の臨床試験部に生物統計学の専門家である佐藤泰憲先生が赴任されてこの連載を着想した。われわれ臨床医が疫学的論文を読む際に統計法の部分は読まないか,読んでも理解できない。また自分が論文を書く際にこれまで本当にこの検定法が適切であるかについては自信がなかった。すべてをStudent t-testで検定する時代は終わっている。データに即した統計が必要である。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.