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本号では「痙縮の臨床神経学」と題して,痙縮の病態生理とともに,近年格段の進歩を遂げている痙縮に対する治療法としてボツリヌス療法,バクロフェン髄注療法,外科的治療の実際が見事に解説されています。これらは神経疾患の機能回復を目指す治療の中でも,最も発展している分野の1つであり,脳卒中,脊髄損傷,痙性対麻痺などの患者のADL向上に大きく寄与するものと思われます。鏡原康裕先生の「痙縮の病態生理」で記載されているように,1990年代まで痙縮はγ運動ニューロン系の過剰活動による伸張反射の亢進によって起こると信じられていました。実際に,主にネコを用いた動物実験の結果はそれを支持するものでしたが,痙縮を呈する患者において微小神経電図法によりγ活動を記録すると正常者と差がないことが1990年代に報告されました。多くの神経生理学の著名な研究者の方々がこの結果に大きな衝撃を受けていたのを覚えています(筆者自身は何がそんなに衝撃なのかはよく理解していませんでしたが)。
この一連の研究を行ったのはシドニーのグループで,鏡原論文の文献8,9の中心メンバーであるDavid Burke,Simon Gandevia,Vaughan Macefieldらはシドニー郊外にあるPrince of Wales Medical Research Instituteで精力的に研究を行っていました。筆者は1999年にDavid Burkeの研究室に留学していたので,微小神経電図記録を数回見学しました。とにかく長時間を要する検査で,3~5時間かかります。電極はヒト末梢神経に刺入するために開発されたタングステン電極で,直径が100μmと髪の毛くらいの太さです。これを目的とする末梢神経に刺入して,γ運動ニューロン活動を反映する筋紡錘からの単一神経記録を安静時,被動運動下で延々と行っていました。しかもこれらの記録はデータレコーダーに保存され,データの解析はそれを再生してoff-lineで行うので,分析には記録と同じ時間がかかります。一般にオーストラリア人はあまり仕事をしませんが,彼らは,病態を明らかにしようとする非常な熱意を持って時間を忘れて(丸1日食事もとらずに!)研究に没頭していました。このような人々がいてこそ神経科学は進歩して来たのだと思われます。
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