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医師国家試験の時期になった。この数カ月学生の顔つきが引き締まり,卒業間近になってやっと医学生らしい雰囲気が出てきたといえそうである。筆者の大学では,6年生ははじめの2,3カ月こそ臨床実習が行われるが,その後は4回の総合試験があるだけで,事実上国試対策の自主学習期間となっている。本来,4年生の終わりにCBT(computer based testing)を合格することで机上学問の整理が終わり,5年生と6年生は臨床実習(bed side learning:BSL)の期間のはずである。しかし,この6年生の医学教育を骨抜きにしているのが,国家試験の存在である。確かに,国家試験は筆者らが受験した頃と比べると,問題の質がはるかに向上し,真剣な吟味がなされている。また臨床実地的な内容も巧みに織り交ぜてある。しかし,所詮はペーパーテストであり,いわゆる“お勉強”の相対的な量が問われるのである。すなわち,全国の同学年者の中で下位の1割に入らないようにしなければならないわけで,受験勉強に励むのが当然である。その結果,医学部における臨床実習は実質的に1年強ということになり,とても実地能力は身につかない。そのため評判の悪い卒後臨床研修2年間が必修化されているわけである。既に多くの医学教育者が主張し始めているが,国家試験のあり方を大きく変えなければならない。医学生が安心して臨床実習に取り組めるようにするためには,その実習の成果を評価する試験でなければならない。ペーパーテストは臨床実地に関するものだけに量を減らして,実技試験を主体にする必要がある。日常的な適性や臨床能力は,大学における成績評価(内申書)を尊重してもらわねばならない。その場合,クオリティコントロールのためにも各大学における学生評価方法や基準に関する調査・指導などが必要となろう。国家試験が変われば,卒前医学教育ははるかに向上すると思われる。
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