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今年も医師国家試験の合格率による大学のランキングが大きな話題になっている。ランクが低いと,悪い成績をとった子供をお母さんが叱るのと同じで,行状の何もかもが悪いとなじられ,一切反論は許されないような状況となる。案の定,新しく導入した教育手法をはじめ思いつく限りの現状批判が学内外から噴出している。確かにこれらの教育成果を数年の単位で検証する必要はあると思われる。しかし,国家試験のランキングというのは医学教育のごく一面をみているに過ぎない。すなわち,いかに最下位の1割に入らないかという本来はレベルの低い話であって,例えばその大学からの受験者の平均点や,上位に何名位が入ったかなどは問題にされないのである。もちろん医師国家試験は資格試験であるので,職能教育的には要は合格すればよいのであるが,それで大学の教育全体を評価するのは行き過ぎである。そもそも教育の視点は学生のレベルの中位よりやや上に向けられており,新しい教育手法も狙いは学習意欲のある学生に対して一種の性善説的発想で企画されている。歴史の古い大学ほどそうであるが,成績不良者に対するボトムアップという発想がほとんどなく,これが国家試験合格率のランクを下げる大きな要因になっている。医学教育においても学生のレベルに応じたいくつかの受け皿を設けて教育するという必要性が認識された次第である。
さて,本号では,中里洋一教授をゲストエディターとして迎え「脳腫瘍研究の最前線―遺伝子解析から治療まで」を特集として取り上げた。ここには脳腫瘍,特に悪性脳腫瘍であるグリオーマに関しての基礎的な研究からtransitional research,さらには臨床の最前線までの今日的な話題が網羅されている。このようにグリオーマの研究は日々進歩しているが,近い将来,遺伝子療法をはじめとする画期的な薬物療法や斬新な放射線療法などが開発されるとともに,より精緻なテイラーメイド治療につながっていくことが強く期待される。
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