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平成16(2004)年に新卒後臨床研修制度が発足したことを契機に,わが国の医療が潜在的に抱えてきた矛盾が一挙にさらけ出された感がある。その一つに,若手医師の大学離れ,地方から都会への偏在,勤務医から開業医へのシフトといった現象が挙げられる。これと呼応して,いわゆるキツイ診療科や地味な基礎医学といった分野への専攻者が大きく減少した。マスディアでは,産婦人科や小児科の医師減少を大きく取りざたしているが,脳神経外科の医療も既に地方では崩壊しており,その余波は東京の周辺にも現れてきている。事実,大学では診療と教育の人手は削れないため,研究が犠牲になり始めている。大学院への進学者は減り,海外への留学者数は大きく減少している。また,演題や論文の集まりが悪く,主催者が再募集をかける機会がめっきり多くなった。幸い本誌は臨床神経学の老舗雑誌であるので,今のところ掲載論文には不自由がないようであるが。
つい最近,厚生労働省が大学においては自由なカリキュラムで卒後研修を行ってよいという方針を打ち出した。これは事実上,現行制度の部分的撤回に相当するが,一度壊したものを元に戻すことは極めて難しい。医療制度や医学教育などは,その国や地域に根付いた独自の歴史や背景因子があるわけであり,欧米の表層的な成功部分を十分なコンセンサスなしに取り入れると,今回のような取り返しのつきにくい事態を招いてしまうわけである。
さて,今月号では最近注目が集まっている「若年者の脳卒中」を取り上げた。5本の特集論文を執筆いただいたが,これらは症例数としては少ないもののいずれも特異な病態を呈し,神経学に携わる者として知っておかねばならない内容ばかりである。特集に続き,筋疾患,幹細胞生物学,脳梗塞治療に関する最新知見の総説が,それぞれ小児神経学,基礎神経学および脳神経外科の分野から提出された。4本の症例報告等に続き,本号では慈恵医科大学からDLBLが疑われた症例のCPCの原稿をいただいた。
以上のように本号でも,神経科学の各分野からの斬新なトピックを掲載することができた。
読者のアカデミックな関心を十分満足できるものと信ずる。
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