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書評の存在理由は大きく分けて2つあると思う。1つは純粋な批評あるいは評論であり,その書評の対象となる書物の内容に対する評者の意見,評価,感想を率直に述べたものである。これは書物の著者と評者との一種の論争であり,読者はそれを読んで,対象となる書物の扱っているテーマに対する自らの見解を改めて認識することになる。書評の本来の姿は,このようなことを目論んだものであろうが,今日,医学書に対する書評がこのような視点から書かれることは稀である。現在,書評に課せられるもう1つの意義は,読者がそれを読んで,書評の対象となった書物を買うか買わないかの判断材料とするための批判,あるいは推奨ではないだろうか。評者自身が書評の読者となる場合にも,主として後者のタイプの書評を期待しており,書評を読むことによって,その書物を購入するかどうかを決めていることが多い。
さて,この書評の対象となっている書物が取り扱っているのは,行政用語としての「高次脳機能障害」である。昔から使用されてきた高次脳機能障害の古典的中核病態は,失語,失行,失認であったが,これらの比較的捉えやすい病態を有する人々とは異なり,主に記憶障害,注意障害,遂行機能障害および社会的行動障害などを有する人々の能力障害は,しばしば表面的には捉えがたく,一見健常者との区別がつきにくい。このため,これらの障害を有する人々は,家庭や職場において社会的不利益を受けやすいのにもかかわらず,長らく障害認定や福祉サービスの枠外に置かれてきた。ようやく2001年になり,本書の編者らが中心となって,そのような人々に対する厚生労働省の支援モデル事業が始められ,「高次脳機能障害」を有する人々の実態が明らかにされると同時に,そのリハビリテーションや生活指導,職業訓練への試みが始められたのである。
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