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はじめに
ポリグルタミン病は,グルタミンをコードするCAGリピートの異常伸長という共通の遺伝子変異により発症する,一群の遺伝性神経変性疾患の総称である。1991年に球脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子変異として,アンドロゲン受容体遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸長が発見されて以来,現在までにハンチントン病,脊髄小脳失調症1,2,3,6,7,17型,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の合計9疾患が,さまざまな原因遺伝子内の同様の遺伝子変異により発症することが明らかにされている(Table1)1,2)。ポリグルタミン病では,異常伸長ポリグルタミン鎖自身が本来の蛋白質の機能とは無関係に毒性を獲得するという,いわゆるgain of toxic functionのメカニズムにより発症すると考えられている。
ポリグルタミン病に共通の発症分子メカニズムとして,ポリグルタミン鎖の異常伸長により原因蛋白質のミスフォールディングが生じて異常コンフォメーションへの変移を獲得し,その結果,難溶性のアミロイド線維状凝集体を形成して,最終的には神経細胞内に封入体として蓄積する,あるいは異常伸長鎖特異的な異常蛋白質間相互作用などを獲得して,神経変性を引き起こすと想定されている(Fig.1)1,3,4)。しかし最近,封入体は細胞内のミスフォールドしたポリグルタミン蛋白質を無毒化するために,細胞が能動的防御反応として形成すると考えられるようになった5)。また,不溶性の成熟したアミロイド線維よりもオリゴマー,プロトフィブリルなどと呼ばれる可溶性の微細な中間体のほうが毒性が強いことが示された6)。しかしながら,これまでポリグルタミン蛋白質の細胞毒性を発揮する構造体は明らかではなかった。筆者らはごく最近,異常伸長ポリグルタミン蛋白質はモノマーの状態でβシート構造への異常コンフォメーション変移を生じ,そしてそれらが重合してオリゴマー,不溶性のアミロイド線維を形成することを明らかにし,さらに重合する前の可溶性βシートモノマーが細胞毒性を発揮することを,初めて直接的に証明した7)。このことから,ポリグルタミン病における神経変性メカニズムとして,異常伸長ポリグルタミン蛋白質のβシート変移による細胞毒性獲得と,アミロイド線維形成による分解抵抗性獲得の両者が重要な役割を果たすという,露出βシート仮説を提唱した8)。異常蛋白質のミスフォールディング・凝集はポリグルタミン病に限らず,アルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患でも発症に深く関与すると考えられており,近年,多彩な神経変性疾患に共通の発症分子メカニズムが存在すると考えられるようになった3,9)。
一方,これまでにポリグルタミン蛋白質の神経細胞内封入体には,ユビキチン・プロテアソーム関連蛋白質,分子シャペロン,転写因子,細胞骨格蛋白質など,さまざまな細胞内蛋白質が蓄積していることが明らかにされている。そして,異常伸長ポリグルタミン蛋白質の発現・蓄積によりプロテアソームの活性が低下して,ユビキチン・プロテアソーム系蛋白質分解の障害が生じることが明らかにされた10,11)。さらに異常伸長ポリグルタミン蛋白質はさまざまな転写因子と結合することが示され,これらの機能障害を引き起こすことが明らかになった12-15)。また,細胞質内での異常伸長ポリグルタミン蛋白質の蓄積により軸索輸送が障害され,神経機能障害が引き起こされることが明らかになった16,17)。一方,異常伸長ポリグルタミン蛋白質はミトコンドリア膜を障害し,ミトコンドリア機能障害をきたすことが示された18)。このようにさまざまな細胞機能の障害が神経変性に関与し,そして最終的には細胞死に至ると考えられる(Fig.2)。
本稿では,現在までに有効な治療法が確立されていないポリグルタミン病について,最近明らかにされてきた発症分子メカニズムに基づいた治療戦略と,最新の分子標的治療法研究を紹介する(Fig.2)。
Abstract
The polyglutamine diseases are a group of nine inherited neurodegenerative diseases including Huntington disease, spinocerebellar ataxia type 1,2,3,6,7 and 17, dentatorubral pallidoluysian atrophy, and spinobulbar muscular atrophy,which are caused by an abnormal expansion of the CAG repeat encoding a polyglutamine stretch in each unrelated disease-causing gene. In the pathogenesis of the polyglutamine diseases, expansion of the polyglutamine stretch causes misfolding and conformational alterations of the disease-causing proteins, leading to pathogenic protein-protein interactions including aggregate formation, and subsequently resulting in their deposition as inclusion bodies in affected neurons. Expression of these expanded polyglutamine proteins has been reported to impair protein degradation, transcriptional regulation, axonal transport, mitochondrial function, etc., which eventually result in neurodegeneration. Currently, a wide variety of research towards establishing therapies targeting each step in the pathogenesis of the polyglutamine diseases is in progress, which includes suppressing mutant gene expression by RNAi, inhibiting protein misfolding/aggregation, promoting protein degradation, activating transcription, activating mitochondrial function, inhibiting neuronal cell death, and neuroprotection by neurotrophic factors. Standardized validation of these preclinical studies and development of sensitive biomarkers for evaluation of therapeutic efficacy in clinical trials will be necessary for development of drugs for the polyglutamine diseases.
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