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ゲノム解読
ゲノムという生命活動の設計図
ゲノムとは,生命進化の長い歴史を経て,発生,分化,成長そして死に至る過程まで,物理的な性質や化学反応を利用しながら環境の情報を取り入れ,生きるための智恵を投影した巧妙な生命の設計図である.すなわち生命体は,ゲノムに記されたプログラムに従って精密にコントロールされている.発生,恒常性維持,環境ストレス応答そして免疫も例外ではなく,ゲノムという設計図に書き込まれた情報が,われわれが意図せずとも必要な時に必要な部位(組織を構成する一つひとつの細胞内)に置いてある情報が伝達され,いとも簡単に多くの遺伝子を協調的に制御して,転写・翻訳を経てタンパク質を作り,その機能を発揮させているのである.
近年,単一の遺伝子の構造異常や発現阻害が原因となって起こる疾患の多くが解明されてきた.しかし,いわゆる生活習慣病では,単一の遺伝子ではなく複数の遺伝子の微妙な塩基配列の違い(内的要因)が原因となって,そのような病気に対する罹りやすさと結びついている.今までは体質だからといって片付けられていたような問題が,今や一つひとつの遺伝子の塩基配列の違いとして表現されうる時代になってきている.食事や環境から受けるストレスなど日々の生活環境のような外的要因に対する反応性も,遺伝子の違いによって説明されつつある.多額の予算を投じて解析したA,G,TそしてCからなる暗号の羅列は,われわれに何をもたらすのであろう.暗号の意味,すなわち遺伝子機能が解明されれば,病気の原因となる分子機構の詳細がわかり,予防・診断・治療に結びつくのだろうか.本稿では,とくにゲノム創薬やオーダーメイド医療とは何かを示すことによって,その疑問に答えたい.
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