連載 論より生活・10
オーダーメイドのケア
頼富 淳子
1
1(財)杉並区さんあい公社
pp.884-885
発行日 2000年11月25日
Published Date 2000/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902378
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生活の場が職場になってから,相手の数だけケアの方法があることを知った.相手の価値観を全面的に受け入れ,その人の生活の流儀に添って生活を支える介護の援助では,はじめに個々人があり,その人の生活がある.看護出身の私は,対象に寄り添うというケアの観点からは歴史の新しい介護に学ぶことが多かった.
脊髄小脳変性症の人が経管栄養を8年間続けている.もう,とうに気管切開を受けており,吸啖は数分毎に必要である.わずかな目ばたきが唯一残されたコミュニケーションの手段である.その人が栄養を注入される場面にいきあった.介護福祉士は処方に従って高栄養流動食に数種類の薬を調合し,旬の苺を2こ,すりつぶしてそれに加えた.流動食が注入され始めると彼女はガーゼに包み,スプーンの背でつぶした苺を病人のわずかにのぞいた舌の上にチョンチョンと当てながら話しかけた.「苺がお店に出ましたよ.さあ,食べましょうね」それが数分後に吸引器で吸い取られることになろうとも,彼女は季節になるとスイカが出た,びわが実った,と話しかけるのである.
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