患者の論理・医者の論理15
診療ガイドラインと説明義務
稲葉 一人
1
Kazuto Inaba
1
1科学技術文明研究所特別研究員
pp.624-628
発行日 2004年7月1日
Published Date 2004/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100990
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医師と法律家と,患者と依頼者(当事者)
医療と法律,医師と法律家(裁判官・弁護士)は,神学・神官から分離した専門職域・職能として,ともにとても古い歴史を有している.科学・実証的な医療で病を癒し,法という秩序による支配で紛争を解決することは,古代において神の権威からの脱却を意味した.しかし,このことが医師や法律家の特権化を招き,医師や法律家の独特の論理を発展させ,これが今,社会との関係でさまざまな問題を生じている.
私はもともと裁判官で,約4年前に医療の世界に飛び込み,この2つの典型的な専門職域を横断的にみることに恵まれたが,その考え方や問題点が類似していることに驚きを隠せない.例を挙げてみると,専門家の,市民への視線の高さ,パターナルな関わり,患者・依頼者の話を聴けないこと,患者・依頼者の生活領域への想像力の欠如などである.したがって,この連載の意図するところは,おおむね法律家の論理と依頼者の論理に当てはまる.しかし,少し違うところもある.その1つが,医療は生物学的基礎を有しているところにある.EBMや診療ガイドラインが,医療の生物学的基礎に基づいている(しかしそれだけではない)ことである.しかし,それを解釈し,実際に使い,医療の意思決定をする場面では,患者の論理との接点で問題を生ずるのである.
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