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今回は,ERCP(endoscopic retrograde cholangio-pancreatography;内視鏡的逆行性膵胆管造影)とEST(endoscopic sphincterotomy;経口的内視鏡下乳頭切開術)に関する判例を検討します.
まず,66歳男性が上腹部痛を訴え,腹部超音波検査の結果,胆石症(14.1 mm)と診断されたケースです.胆石症の精査・手術目的で入院し,再度の腹部超音波検査にて胆石の増大(18.5 mm)と総胆管拡張を認めたため,その1週間後にERCPが施行されました.ところが,ERCP直後から胃部不快感,午後7時から腹痛と嘔気・嘔吐が出現し,2日後に重症膵炎と診断され,結局,ERCPの50日後に死亡しました.争点は,①ERCPについて,膵炎の重症化に関する説明義務違反と,家族に対する説明義務違反の存否,②ERCPにおける手技上の過誤の有無,③急性膵炎に対する基本的治療を怠った過誤の有無などです.裁判所は,説明義務違反に関して,「医師は,患者の疾患に対する適切な治療方針を立てることなどを目的として検査を実施しようとする場合,診療契約に基づき,患者に対し,その時点における疾患についての診断,検査の必要性,検査の内容,検査に伴う危険性などについて説明すべき義務を負う」としたうえで,本件では,以下のとおり,説明義務違反を否定しました(名古屋地裁平成16年9月30日判決).「ERCP後に膵炎がときに重症化することがある」という説明をしたのかどうかについて,担当医は説明をしたと証言しましたが,その記録が不明瞭であったため問題となりました.担当医はERCP直前に抗酵素薬メシル酸ガベキサート(FOY®)を投与しており,それが膵炎発症予防のためであるという説明をしていたことから,裁判所は,膵炎が重症化することもある旨を説明したと解するのが自然であるとして説明義務違反を否定しました.また,家族に対する説明義務違反に関して,原告らは「医療機関が,死亡ないしそれと同視すべき重大な合併症の危険性のあり得る医療行為を行う場合,説明義務の対象者は本人だけでなく家族にも拡張されるべき」と主張しましたが,裁判所は,患者が会社の代表取締役であって判断力には問題がなく,ワンマン社長といわれており,自分に関することは自分で判断し決定していたと認定し,家族に対する説明義務違反も否定しました.もちろん,一般論として,患者と家族とが十分検討できるように家族に対しても情報提供をすることが望ましいのですが,全例の家族に説明するとなると,医師の負担は膨大となります.ただ,医師としては,医療行為の内容,疾患名とその状態,患者の理解力などを勘案しながら,適宜,家族への情報提供を検討すべきでしょう.
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