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今回も,説明義務違反が問題となった内視鏡関連の判例について検討します.
前回とりあげた判例と同様に,内視鏡検査の前処置後にアナフィラキシーショックを起こし,死亡した事例があります.第3回「問診義務」で触れた判例です.23歳女性が食後の心窩部痛と腹痛を主訴に病院を受診し,内服薬を処方され服用しましたが改善しなかったため,その12日後に胃内視鏡検査を初めて受けました.前処置として,2%キシロカイン®3mlによる咽喉部麻酔が行われ,続けてセルシン®(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)約4.25mgとブスコパン®(抗コリン薬)20mgをそれぞれ静注したところ,まもなくショック状態となり心肺蘇生の効果なく約6時間後に死亡しました.原告ら(患者側)は,そもそも不必要であった前投薬を漫然と投与した過失,薬剤の投与方法・量・注入速度の過失,問診・観察義務違反,予見可能性のほか,セルシン®という鎮静薬を投与する際の説明義務違反を主張しました.裁判所は,まず一般論として「胃内視鏡検査の実施や前投薬の投与の必要性,緊急性が,治療行為そのものに比較して必ずしも高くはないことや,発生する確率が極めて低いとはいえ,同検査の実施及び前投薬の投与により生命,身体に対する重篤な障害を与える危険性があること」を考慮し,医師は,胃内視鏡検査の必要性・緊急性と,前投薬の目的・効果・必要性,それに伴う危険性などを説明したうえで,「検査を受けるか否か,及び,各前投薬の投与を受けるか否かについて,被検者自身に選択させる(同意を得る)必要があるというべきである(説明義務)」と述べました.そして本件では,前投薬を投与する際に上記のような説明が行われず,患者の同意を得なかったこと,および,セルシン®の投与につき選択の機会が与えられず医師の判断で投与されたことなどから,説明義務違反を認定しました.さらに,前投薬の副作用の内容やセルシン®の投与が必要不可欠ではないことなどについての説明があればセルシン®の投与を拒絶した可能性は十分あったとし,説明義務違反と死亡との因果関係についても認定しています(福岡地裁小倉支部平成15年1月9日判決).医師の判断のみで投与されたことを非難するもので,いわゆるパターナリズムを否定する判決と理解できます.われわれ医師は,検査を患者にとって安全に,かつ,苦痛なく施行できるようにと常に配慮していますが,その際の手続きとして,薬剤を投与する以上,「説明と同意」の原則を忘れてはならないのです.ちなみに,「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」(厚労省がん研究班編,主任研究者:祖父江友孝,2006年)によれば,下部消化管や腹腔鏡等を含む全内視鏡検査の前処置における死亡率は,0.00011%(14/12,844,551)とされています.
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