プライマリ・ケアのリスクマネジメント[5]
回避できた!? 外傷死亡
長野 展久
1
1東京海上日動メディカルサービス/東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科司法医学
pp.56-60
発行日 2005年1月1日
Published Date 2005/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100037
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交通事故をはじめとする外傷患者の診療では,外出血や開放性骨折などの派手な損傷にどうしても注意が向けられがちですが,最も大切なのは確定診断よりも病態把握(primary survey)といわれています.とくに最初の1時間の対応で思い浮かべるべき重篤な病態は,緊張性気胸,心タンポナーデ,大量血胸,腹腔内出血,骨盤骨折,脊髄損傷などであり,いい換えると,これらの病態を適切に診断することによって,回避できた(防ぎ得た)はずの外傷死亡(preventable trauma death : PTD)を減らすことが可能となります1).
ところが,救急を専門とする医師であればまだしも,第一線の救急病院で働く多くの一般外科医,整形外科医,脳神経外科医などにとって,多発外傷を的確に治療していくのは時に相当なストレスとなります.目の前で悪化していく患者に対し,気管内挿管とCV(中心静脈)カテーテルさえ挿入することができればよいというわけではありません.
今回は,乗用車自損事故を起こした38歳の男性が,事故から3時間30分後に急死したという症例において,本来避けることができたPTDかどうかが争われた裁判例を呈示します.
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