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ソメイヨシノの語源をご存知でしょうか。吉野桜をもとに品種改良された桜であることはなんとなくわかっていましたが,「ソメイ」が何なのかは知りませんでした。山の手線の北に位置する巣鴨におばあちゃんの原宿として有名なとげぬき地蔵商店街があります。週末には原宿なみのにぎわいをみせる人気スポットです。私が訪れた日もたいそうな人ごみで,それを見込んだ選挙演説が聞こえてきました。人ごみから抜け出すように,閑静な住宅街にそれますと,小さな公園がありました。入り口に立派な瓦葺きの門があり,奥には蔵がありました。ベンチに座ってくつろいで,ふと隣を見ますと,石碑があり,「ソメイヨシノ発祥の地」と刻んでありました。「ソメイ」は「染井」であり,巣鴨と駒込の間に位置する地名です。二葉亭四迷や岡倉天心らが眠っている染井霊園が有名で,確かに桜の名所であることを思い出しました。
蔵に近づいてみますと,扉が開いています。中から人が出てきたのには少し驚きました。初老の男性で,ボランティアで蔵の説明をされているそうです。「この蔵は丹羽家の蔵で,昭和11年にできたものです。どうです立派でしょう。丹羽家は江戸時代から続く植木職人です。このあたり染井,駒込は植木職人の街と言ってもいいぐらい江戸時代から続く旧家が多いのですよ」「このあたりは丹羽さんという名字が多いのですか?」「いいえ,丹羽家は本家だけですね。伊藤という名字がこのあたりは多いのですよ。伊藤だらけです」「へえー。伊藤某という有名な植木職人が江戸時代にいましたよ。ご子孫なのですね」「よくご存知ですね。ところで,どこからいらしたのですか」「渋谷です」「山の手線の裏側じゃないですか。よくいらっしゃいました。自慢じゃないけど私は渋谷に行ったことがないです」。私以外に蔵の見物客はいないものですから,話し込んでしまいました。
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