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今月号の特集は「泌尿器医のための内分泌学ことはじめ」です。泌尿器科という診療科は,規模の小さな診療科でありながら,多彩な疾患を幅広く扱っていると常日頃感じている先生が多いのではないでしょうか? 最近の学術におけるキーワードの1つに「学際」という表現があります。経済界における異業種交流会のごとく,専門を異にする研究者あるいは医師が1つの場に集まり,同じ課題を討論したり,交流を深めたりすることは,すでにさまざまな学会で行われています。そういう立場から泌尿器科学を眺めてみますと,泌尿器科学は学際的な要素を内包しているように感じます。腫瘍学があると思えば,腎臓病学,透析医学,移植学,神経生理学,生殖医学,そして今回とりあげた内分泌学です。内分泌学として泌尿器科医が扱う臓器は,副腎と前立腺です。副腎疾患と前立腺疾患を同じ視点で治療方針を立てることはしませんが,いざ内分泌学という学問分野を意識すると,共通項が浮かび上がってきます。それは,ステロイドホルモンというキーワードです。
今回の特集は,ステロイドホルモンという生命科学と医学での重要事項を軸に,泌尿器科診療における内分泌学の理解を深めるために企画しています。そのことが結果的に泌尿器科学の学際性を示したことになったと感じています。成瀬光栄先生・他には内分泌学の総論について,副腎腫瘍を例にとってわかりやすく説明していただきました。内分泌臓器と標的臓器を含めた「系」としての理解の重要性が解説されています。佐々木悟郎先生・他には小児のテストステロンとデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)が年齢によって変化することを豊富な図と表でわかりやすく説明していただきました。内分泌環境が成長とともに変化していることを認識しました。胎児期における内分泌環境が微妙に関係しているのが,男児外陰部異常症です。緒方勤先生には,単一遺伝子疾患と多因子疾患の観点から解説していただきました。胎児期の正常分化の模式図は,解説がわかりやすく,性分化を俯瞰できます。男児外陰部異常症は近年増加し,内分泌撹乱化学物質の影響が指摘されているのはご存知と思います。種類は膨大ですが,これらの作用点は,エストロゲン受容体です。生水真紀夫先生・他の論文にはエストロゲンの作用には,genomic actionとnon-genomic actionの2つがあること,最近話題のSERMについて詳細な解説をいただきました。加藤茂明先生・他の論文では核内レセプターの構造と機能についての考え方の基本がわかりやすく解説されています。ここまで読んだ後に,柴田洋孝先生の論文を読むと,私達のホームに戻ってきた気がするのと,長旅を終えた安堵感でホッコリします。実践的なエッセンスがつまっています。
さらに,この知的興奮を継続させたい方には帚木蓬生著『インターセックス』(集英社刊)をおすすめします。ミステリーへの誘いです。
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