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編集後記
大家 基嗣
pp.704
発行日 2011年8月20日
Published Date 2011/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413102479
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個人的に経験した内容がテレビなどで紹介されると何とも言えない感慨が湧きます。紹介された内容が自分の経験以上に踏み込んで取材されていたので,追体験したくなってきました。2月号の編集後記で暗渠を辿った経験をお話しました。原宿から渋谷に向かって歩いて開渠(暗渠が地上に現れる場所)を見付けた体験でしたが,NHKの番組ブラタモリではこの渋谷の開渠から出発して暗渠を辿っていました。つまり,私と逆方向に同じ道を辿りながらタモリ氏一行は源流である新宿御苑に向かいます。暗渠の上を走る道が直角に折れ,とうとう新宿御苑に辿りつくところで,タモリ氏は塀を乗り越えます。新宿御苑の中を覗き込むと,鬱蒼とした深い木立の中にわき水を見付けました。「生きていると良いことがある」とは見付けたときのタモリ氏の弁です。ワクワクしながら番組を見て,「よし,今度行ってみよう」と意気込んだのですが,「まてよ,この直角に折れ曲がった道は見覚えがあるな」と感じました。実は私が毎日の通勤で通っている道でした。
新宿御苑を千駄ヶ谷口から入場し,わき水の場所から直角の道を眺めました。自分が毎日通っている道です。さっき通ってきたこの道を歩く人は誰もいませんでした。塀に向かって明るい光が差し込んでいるせいで線が引かれたように陰が道を分断していました。こうして眺めると,その道を歩いている自分の幻影を見るような,主体と客体が入れ替わり,鏡の向こう側から自分を見るような感覚におそわれました。
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