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編集後記
大家 基嗣
pp.644
発行日 2016年7月20日
Published Date 2016/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413205757
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「新書大賞2016」の第1位になった本を皆様はご存知でしょうか.『京都ぎらい』(朝日新書)という大胆かつ意外なタイトルの本です.著者は国際日本文化研究センター教授の井上章一氏で,タイガースファンで知られた文化人ですが,個人的には私の出身高校の先輩です(私立洛星高校).京都の素晴らしさを書いた本は数あれど,なぜこんなネガティブなタイトルの本がベストセラーになり,新書大賞を受賞したのか興味が湧きました.書店で手に取ってみますと,帯に『「ええか君,嵯峨は京都とちがうんやで…」さげすまれてきた「洛外人」が,京都人のえらそうな腹のうちを暴露』と書かれていました.洛中に住む「京都人」の排他主義をとことんまで書いた本です.お茶で有名な宇治市に生まれ育って,中学から京都市内に通学した私は全く同じことを言われた記憶がよみがえりました.
宇治市は確かに京都府ではあっても京都市ではないので,洛外といえばそのとおりですが,皆様も訪れたことがあるかもしれません,嵐山のある嵯峨は一般常識では十分「京都」ではないでしょうか.しかし現実は違います.中京区を中心とする地域のみが「京都人」にとっては京都で,他は京都と認めていません.中学生だった私は井上氏と同様のことを言われてカルチャーショックを受けました.その後,仲のいい「京都人」の友人ができ,遊びに行った家は町家づくりで,軒先は狭いが,玄関を入ると長い土間が続き,坪庭がありました.名字以外に屋号があって,近所付き合いでは屋号で呼び合う習わしです.井上氏は閉鎖的な彼らの世界観と差別意識をメッタ切りにしたわけです.
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