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ときより立ち寄る丸善日本橋店に,文庫本が平積みになっていました。タイトルは『思考の整理学』(ちくま文庫)。説明書きが添えてあって,「東大・京大生協で去年最も売れた本。1986年以来の超ロングセラー」と書かれていました。思わず手に取って序文を読み,面白そうなのでその場で購入しました。著者はお茶の水女子大学名誉教授外山滋比古氏です。思考という過程を学問的に追求した著書ではなく,どちらかというと気楽なエッセイです。ベストセラーである理由は,卒業論文に必要な普遍的な考え方が述べられているためだと思いました。
同感できるところと同感できないところがありましたが,同感できる箇所には,私が日頃から考えてはいるがメッセージとして伝えきれないことが明確に表現されていました。例えば,論文を書こうとしている学生に,「テーマはひとつでは多すぎる。少なくとも,二つ,できれば,三つ持ってスタートしてほしい」。この逆説的なメッセージは,受け取り手によって印象が変わると思いますが,同感できる方が多いのではないでしょうか。研究を始める若い医師に,私は先輩の一研究者として,研究はいくつものテーマを並行して行うようにアドバイスしています。ひとつのテーマで研究を行い,長い年月をかけてもそれが上手くいかなかった際のショックは大きく,さらに研究を続けていく意志を失う可能性があるからです。だめと思ったらみんなで相談してさっさと止める柔軟性が必要な気がしています。「テーマはひとつでは多すぎる」というメッセージに対して,ピンとくる人はピンと来る,と著者は述べていますが,私があえて言葉をつけ加えさせていただけるなら,「ひとつでは『負担が』多すぎる(重すぎる)」でしょうか。
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