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昨年,アメリカのベンチュラ市で開催されたゴードン・カンファレンス(DNA修復)に参加した.総勢150名という比較的少人数の会であったが,DNA修復に関する最新の研究成果が報告され活発な討論がなされた.up-to-dateの知識を吸収でき,また自分の研究に対して多くの助言が得られ,有意義な1週間であった.参加者で所属が臨床講座なのは私だけであった.ゴードンというのはジョンズ・ホプキンス大学の化学の教授の名前であり,同じ領域で研究をしている人が少人数集まり新しく得た結果について論じあう目的で始まったもので,第1回の会議は1931年夏にバルチモアで行われたそうである.
私は色素性乾皮症などDNA修復異常で発症する遺伝性疾患が専門であるが,ここ数年,この分野の基礎研究の進歩には著しいものがあるため,日々明らかになる新しい知見をフォローするにはこのような学会への積極的な参加が必要となる.医師になって14年目であるが,6年余りを基礎の教室で過ごした経験があり,いまだ基礎研究への興味が持続している.診療の合間に少しずつではあるがDNA修復に関する実験をしており,臨床医と研究者の二足のわらじをはく毎日が続いている.皮膚科医としての業務(診療,症例検討,学生の指導など)は決しておろそかにできず,研究の時間は必ずしも十分とはいえない.夜間や休日に実験をしたり研究論文を読んだりしているが,若い院生でもない私にいつまでこのような二重生活をする体力,知力が続くであろうか.臨床医と研究者—これらを両立することははたして可能なのだろうか.基礎の講座でやっていく能力も自信もなく,かといって臨床オンリーだと専門領域の進歩からは取り残されてしまう.おそらく今後もこのようなことを考えながら,毎日が過ぎてゆくのであろう.読者の中にも臨床と研究の狭間で同じような悩みをもった皮膚科医が結構多くいるのではないだろうか.
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