臨床外科交見室
高度先進医療と保険診療の狭間で
朔 元則
1
1国立病院九州医療センター外科
pp.1210
発行日 1995年9月20日
Published Date 1995/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407901974
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国立基幹病院の役割は「高度先進医療を推進し,国民の健康と福祉に貢献する」ということにある.われわれはその目的のために日夜努力を怠っていないつもりであるが,高度先進医療を推進するに当たっての大きな壁が「わが国の健康保険制度の枠内で…」という制約である.日本外科学会をはじめ多くの関連学会におけるディスカッションに参加しても,そこで討議検討され,臨床応用を急くべきであるという結論を得た先進技術の多くが,健康保険で未承認のため明日からの医療には応用できないというのが実情である.
ひとつの例として,消化器外科領域での身近な例を挙げてみよう.消化管の器械吻合がわが国に本格的に導入され始めたのはEEAが発売された1979年頃からであるが,器械の使用が健康保険で認められたのは,直腸癌に対する低位前方切除術施行時の使用が1984年,食道噴門部癌に対する胃全摘術時の使用が1985年である.この5年間のタイム・ラグの間にも直腸癌や噴門部癌の患者は病院を訪れるわけであるから,高度先進医療を目指す多くの施設は,患者の個人負担あるいは病院の負担の下に器械を購入し,器械吻合で初めて可能となった超低位前方切除術で多くの患者さんを人工肛門造設から救い,また非開胸下の縦隔内食道空腸吻合術などを行ってきた.
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