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最近学会発表や投稿論文に不正確な診断がされている症例が増えているような気がする.さらに写真を示すだけで,現病歴や臨床・病理所見の記載が不十分なために,診断の問題点を検証しづらくなっている.つまり,典型的な症状がそろわなくても,自分が知っている珍しい疾患と1つでも共通点があれば,その診断にしてしまいがちである.特に自分の専門とする病気に結びつけてしまうことが多い.確かに専門医になるために,学会報告や論文を作成しなければならない事情はよく理解できるが,誤診例を今まで報告がない珍しい症例として報告するのはいかがなものであろうか.珍しい症例であればあるほど,本当にその診断が正しいのかを冷静になって考え直す必要がある.いったんこれらの症例が論文化されると,その論文を読んだ人も,同じような間違いをおかすことになる.実際にいくつかの論文の投稿があり,診断の問題点を指摘すると,「どこどこの雑誌に同じ症例があるから」とか「学会で発表したが,何も質問がなかったから」というコメントをもらうことがある.何も質問がないこととその発表が正しいということとは無関係である.これを防ぐために,問題点があれば,不興を買おうが積極的に質問をするべきである.また投稿論文の査読者の質も問題となっている.実際に症例報告として雑誌に掲載された症例でも誤診と思われる症例はある.特に臨床研究では,特定の症例を集めて,その検査データや治療データなどを新知見として報告するわけであるが,診断が正しくないと,集積されたデータは意味がない.しかし実際は新知見を得られたとするために,都合が良いデータを示す症例だけを集積した論文になることが多い.症例報告と異なり,臨床研究論文では,診断が正しくなされているかを検証することはきわめて困難である.もう一方の問題は,rejectされた論文のゆくえである.つまり査読者にその知識が不十分であると,投稿論文をrejectする可能性があり,素晴らしい論文や教育的な論文が日の目を見ないことになる.つまり査読者の責任は重い.今回『臨床皮膚科』の編集委員を降りることになったが,長いようで,あっという間の出来事であった.本誌のあとがきで日本の皮膚科の問題点を指摘する機会がなくなり,非常に残念であるが,査読の重責から解放されることに安堵している.
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